第30話 アンタレス
町を一旦出て数分歩いた所で脇に反れ、何も無い所に向かった。取り敢えず太刀の汚れを取る為にクリーンを使ったが、殆ど変化しなかった。表面に付いたゴミが取れた程度だ。
次に地面に置いてファイアーボールをぶつけてみた。パリンと音がして表面の汚れが落ちた。クリーンを掛け、生活魔法の風にて冷ましてから柄を握る。
グリップがないので翳す位しか出来ないが、素人の俺でも判る程の見事な刀身だった。魔力を流し込むと一気に魔力を吸われ始め、離す事が出来ずに呻き始めたが、その様子を見ていたシェリーが俺の異変に気が付き、慌てて俺の手からアンタレスを取り上げた。
俺はぜいぜいはあはあと息を乱していたが、大丈夫と身振りで示した。
シェリーからアンタレスを受け取り再度解析を行ったが、刀の状態が覚醒に変わっていた。そして禍々しい妖艶な怪しい刀となっていたので、かなり驚いた。
食い入るように刀を見ていると、シェリーが心配そうに見つめてくるので、大丈夫だと告げながら頭を撫でた。
「心配掛けたね。これは刀と言って、俺の国で昔使われていた種類の武器なんだ。尤も今では主に美術品になっているんだよね」
刀についてざっくりと説明し、鍛冶職人の所に向かった。
鍛冶職人の工房は直ぐに見付かった。工房の為、看板や煙突があり、文字の読めない俺にも分かり易かった。
早速鞘と柄を作って貰うようにお願いしたが、作成に1週間程掛かるとの事だ。アンタレスを渡し、鞘と柄を作って貰う代金として前金で10万Gを支払った。
店主はドワーフの寡黙な感じだ。
「よく手入れされているが、珍しい剣だな」
ブツブツと言っていた。
ナンシーとの待ち合わせにはまだ少し時間が有るので、一度部屋に戻って荷物の整理を行った。
研修が明けた後、2人で魔物の討伐依頼を受ける予定にしているのだが、その依頼は一泊する必要が有るので、野営の準備をする。
また、魔石を使って、本日購入したブロードソードとエストックに対し、強化を施す事にした。今回はオークの魔石を数個、ゴブリンメイジの魔石を2個用意した。
先ずはブロードソードを強化する。+6補正まで行けた。属性付与も成功した。炎の属性で、魔力を込めると一定時間炎を纏う炎の魔剣となった。
続いてエストックも成功して、水属性で+6補正。こちらは魔力を込めると、その魔力量に応じた強さにて突き刺した相手に冷気を与え、凍らせる凍剣だ。
結果を伝えるとシェリーがプルプルと震え、驚愕から固まっており、肩を揺すったりしても暫くの間反応が無かった。
「おーい戻っておいで。戻ってこないなら胸モミモミするぞー」
と言いつつ俺はにやけながら実行する事にした。
失礼しますと告げてから胸を揉んでみたが、彼女は急に我に返った。
「エッチ」
一言だけ言われ、一呼吸おいてから感想を述べた。
「ランスロット様は錬金術もお持ちなんですね。凄過ぎます」
感心するやら呆れ果てているやらで、シェリーはコロコロと表情を変えているので、見ていて面白かった。
そしてお昼休憩の時にナンシーが言っていた事を聞いた。
「町に住む老人を除いた男女比率は、概ね1:3位なので、一夫一婦制だと結婚できない女性が多くなってしまいます。魔物との戦いや戦争により男性の死亡率が高いので、一夫多妻制はこの世界では殆どの国で認められていて、一般的な制度ですよ。強い男はより強い子孫を残す義務があるというのが一般的な考えですね。強く能力に優れた者はハーレムを築くのが一種の義務ですから、ランスロット様の周りには多くの女性が、そう、ナンシー様のように優れた女性がこれからも集まってきますよ」
さも当たり前のように言っていたので驚いた。
俺のいた国では一夫一婦制で有る事を伝えたが、かなり驚かれた。
「これから多くの女性に囲まれると思いますが、シェリーの事もたまにご寵愛下さると嬉しいです」
シェリーがしなだれ掛かってきた。
まだお手付きしてないのに気が早い。
話の内容に頭が痛く成ってきたが、そろそろナンシーが仕事を終える時間なので、ギルドまで迎えに行く事にした。
ギルドに着いたが、既にカウンターにナンシーの姿は無かった。暫く待つとナンシー様が現れた。
白の膝上丈のミニスカートに、袖無しのシャツの上から袖を通さずにカーディガンを首から掛けていた。
とても清楚な格好だ。
彼女の長いすらっとした脚が惜しげも無くその存在を主張している。
素敵な脚だ。スリスリしたら気持ちよさそう。じゃなくて服のセンス良いなあ。
「こんばんはナンシーさん」
と言うとぶすっとした顔をして睨まれた。
「あの、ミスナンシー?」
更に口を尖らす。
「ナンシーちゃん」
あっ!やばい怒っている!?~。やっぱり呼び捨てかな?でも可愛いな!と思いつつぎこちなく呼び捨てにする事にした。
「やあ、ナンシー」
「ランス!よく出来ました。お待たせしました。迎えに来てくれて有難う」
手を後ろで組んでおり、首を少し傾けての営業スマイルでは無い笑顔を向けてきた。この笑顔は反則で有る。俺はランスと呼ばれたが、シェリーには悪いがナンシーの笑顔にドキドキしっぱなしだ。
「ナンシーは服のセンスも良く綺麗だよ」
誉めるともじもじしていた。
「有難う」
顔を赤くしていたが、次にシェリーがナンシーに挨拶をした。
「こんばんはナンシー様」
「貴女もですよシェリー。私の事はナンシーと言ってね」
「でも、その、私は奴隷ですから、ご主人様の恋人を呼び捨てにするなんておいそれた事は…」
「ナンシーよ」
「えっと、ナンシーさん」
「ナンシーよ」
「ううう。 では、こんばんはナンシー」
「はい、よく出来ました。あのねシェリー、貴女も既にランスの恋人の一人なのよ。私達はランスを共有するソウルメイトになるのだから、私達の間には遠慮は無くて良いのよ」
ナンシーはシェリーの手を取って熱く語っていた。なにやら意味不明な単語が出たが、ナンシーとシェリーは既に俺の彼女らしい。
美人で聡明な女性が彼女になってくれるのは嬉しいが、彼女にした覚えが無いんだよな。
「何故だ!判らん。いつそうなった?告白してもされてもいないし、まだ出会って日が浅いんだが」
と苦笑をしながら心の中で呟いた。
今日は宿の食堂で夕食を頂く。相変わらず混んでいるが、予め宿泊者席に席を取っていたので、すんなり座る事が出来た。
今日は俺が先に座ったらすかさずナンシーが俺の隣に座り、シェリーはナンシーの前に座った。
料理を頼むと会話が始まったが、先ずは他愛のない話からだ。それと、そう言えばナンシーは俺の事をランスと言っていたなとふと思った。
「ナンシーは凄いなー。俺には出来なかったけど、シェリーが誰かの事を呼び捨てで呼ぶ事に成功するとは。どうかシェリーと仲良くしてやって欲しいな」
「勿論ですわ。ソウルメイトになるのですから」
「それと俺達って付き合っていく様だけど、俺なんかで良いの?」
シェリーは俺の発言に呆れていた。
「ランスロット様、今更何を言っているのですか?既に求婚をなさっており、更に受諾されているでは有りませんか!」
シェリーに身覚えの無い事を言われてしまい、その内容に俺は唖然としていたのであった。
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