第16話 今後の事と記憶
シェリーがお風呂に入っている間に仕事用の手帳を取り出し、今覚えている地球での事を何とか思い出しながら書き込んでいく。
転移した日付。これも分からなくなっていたが、まだ電池が残っているスマホのカレンダーから判明した。家族の連絡先も発信履歴と電話帳から控えた。また、妻の名前もスマホから出てきた。
妻の名は直子。
子供は上の子が中3の女の子で名前はさゆり。
下の子は中1の男の子で雄高。
子供の年は何となく覚えていたが、名前が出てこなかった。スマホの登録にある名前を見て、そういう名前だったような気がしてきた。
少なくとも、自分に子供が居る事だけは思い出せた。
そして自分の年齢もスマホのプロフィールから拾った。
色んな事が曖昧になってきた。取り敢えず生年月日と転移した日付、その時の元の年齢、ステータスカードの年齢を記載し、転移後記憶が曖昧になってきている旨の記録を残す。こちらでの日付と転移日、書き記したのが転移後4日目と。
スマホのIDやパスワード等18歳以降に使っているのは思い出せないだろうからと記録していった。
それと所属していた会社の事も忘れてきた。
名刺や手帳の記録から何となく思い出してきたが、いずれ記憶から無くなるのだろうなと寂しく思った。
10人の部下を抱え、設計と試作を行っていた。作っていたのはスポーツ向けの折りたたみ自転車のフレームだった。
大ざっぱな自転車の図面を書く。ゴムチューブとホイールの設計は得意じゃ無いが、基本は押さえていた。そう遠くない間に記憶から無くなる可能性が高いので、今後の事も有るので残す事にした。
自宅の住所も記録した。18歳の時の記憶は鮮明なのと、今の体の年齢がどうやら18歳だ。その為、最悪18歳以降の記憶が無くなる可能性があるからだ。涙が出てくる。自分が今まで生きてきた全てが否定されているようだと。その思いも残した。それと、後で知るのだが、子供の年齢を間違えていた。長男は大学受験を控えているのだ…
そうこうしているとシェリーがお風呂から上がってきた。これから夕食があるからか、今朝買ってきた服を着ていた。
髪も綺麗に洗った為、今まではぼさぼさで小汚かった髪が綺麗になり、顔の汚れ等も取れた。元々可愛いと思ってはいたが、天使か!と思う程の少女がそこに居た。
俺も風呂に入る事にした。体を洗うと結構汚れていたんだなと感じた。そうしていると突然シェリーの声がした。
「失礼します」
バスタオルを巻いただけのシェリーが入って来たので俺は固まった。着痩せするのか胸は意外と有り、その双丘が存在を大きく主張していた。谷間についつい目が行ってしまうのは男の悲しい性だよね。
「お背中お流しします」
そう言い、返事をするまでも無く俺の手からタオルを奪うと、背中を洗いだした。前も洗おうとしたので、背中を洗ってくれたお礼を言った。前は自分で洗うからと固辞すると、意外な事に大人しく出ていった。
お風呂を上がり脱衣場に行くと、バスタオルを手に待ち構えていたシェリーが居た。
「お体をお拭きします」
俺は固まってしまったが、辛うじて背中を向けた。背中だけ拭いて貰い、後は自分でするからと追い出してしまった。
服を着て部屋に戻ると、シェリーが泣いていた。理由に心当たりがないので狼狽えてしまった。
「どうしたの?」
「ランスロット様は私の事が気に入らないので、捨てられるのですか?このまま何処かに売られるのでしょうか?」
シェリーは震えていた。
どうやら奴隷の教育で、女性の奴隷はご主人様の入浴のお世話をし、全身を洗ったり体も全て拭き取る等、尽くす必要が有る。ご主人様の寵愛を得ないとすぐに捨てられると教え込まれているようだった。
シェリーの受けてきた扱いが分からなかった為、意図せずに不安にさせてしまったようだ。奴隷にとって主人から捨てられるというのは死活問題なのだ。次に売られた先の主人はもっと酷く、命を奪われる恐れが高くなる等、自分の命に関わるから必死なのだ。
取り敢えずシェリーを抱き寄せて謝った。
「不安にさせてごめんな。シェリーの事は絶対に捨てないよ。今まで奴隷と接した事が無いから俺もシェリーとどう接したら良いのか分からないだけなんだ。もう食事の時間だから、後で今後の事や奴隷制度の事等を教えてね。色々お話をしようね」
シェリーは泣き止んで、はにかんだ笑顔を見せた。
その後は食堂に向かうよう促したが、シェリーに食事について釘を刺した。
「俺は奴隷とも同じテーブルに座って一緒に食事をする事を求める。奴隷メニューを禁止する」
そう伝えたらまた泣き出した。うーん。
抱き寄せて頭を撫でてやったら、頷いて理解した旨を伝えてきた。食堂に向かうがシェリーは俺の服を掴んで、よろよろと着いてきた。なんか餌付けしたペットみたいだ。
食堂は結構混んでいたが、宿泊者専用席に空席が有ったのでそこに席を確保してから注文を行った。俺には分からないのでシェリーに注文をお願いした。注文したのはホーンラビットのステーキ定食。
あっさりしていて肉も柔らかく美味しかった。何より美味しそうに、幸せそうに食べるシェリーの笑顔が眩しかった。俺は密かにこの子の笑顔を守ろうと心に決めた。宿泊者サービスで半額だが、この日の夕食は銀貨2枚だった。
食事をして部屋に戻り、これからの事について話をしなきゃなと思いつつ食堂を後にするのであった。
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