第36話 弱体化した彼との決戦

 わたしは光魔法を正面に向けて撃った。

 景色も音も消し飛ばす極太の光条がクレーターを作りながら走る。

 光は万物最速。発せられてから避けるのは不可能。

 だが。

 無数の火線が蜂の大群よろしく群がってきた。

 大半は常駐防御魔法で消滅させられたが、何発かが素通りしてボクの胴を裂いた。

 意識の範囲外にある侵入者・飛来物に反応できるとは言っても、やはりは無理だ。

 魔法は思考の実体化。裏を返せば、一つの事に集中しなければ満足な実体化は出来ない。

 前方。

 MARK Ⅱは無傷。

 どんな魔法を使ったか…………いや、素の経験値か。

 確かに光は最速で、見てから避けるなんて出来ない。

 けど、地球人的には、銃火器と言う、光より遥かに遅いものが相手でもそれは同じだろう。

 ボクの微妙な視線や動作から、射線をあらかじめ予測し、避けたのだと推測。

 とりあえずわたしは回復……傷は塞がったが、執拗に迫るMP5の弾丸がボクに新たな銃創を穿つ。

 思考して即、身体は元通りになる。

 だが、次の魔法思考を編む前にフルオート射撃の雨嵐が新たな致命傷を刻み込んでくれる。

 【ステータス】がイーブンの条件になって、ボロが出た。

 方や、ケチな特殊詐欺犯。

 方や、ガチの特殊急襲隊員。

 戦闘員としての、格差。

 君臨者から奪った借り物の力と、異世界と言う条件で好き放題設定できた魔法。それで遊んでいたに過ぎないボクと、元SATの彼とではまるで真剣みが違った。その差がここに至って出ている。

 地球でボクが殺したのは、油断しきっていた家族と仕事仲間だけ。ほとんど抵抗する暇も与えず、一方的に殺した経験しかなかった。

 エルシィとしてのわたしも、殺し“合い”の経験はなかった。

 こんな末法の世界だから野盗とかを殺したことはたくさんある。

 けれど最初の森で襲ってきたオーク二人の時のように、戦いになる前に殺してしまっていた。

 相手の存在すら、認識できないままに全てが終わっていたケースが大半だった。

 一方のMARK Ⅱはテロリストや凶悪立て籠り犯を相手に、同僚から“シリアルキラー”と呼ばれるほどの殺害数を重ねていた。

 それも、例外なく胸を撃ち抜くと言うこだわりを、最後の犯人ボクの時まで徹底した。

 MARK Ⅱは、どうすれば人を殺せるのか、この場で唯一知る者だった。

 防戦一方。

 このジリ貧から抜けるには、わたし自身が思考しなくていい“外付けの回復手段”が必要だ。

 エリクサーを生成、瓶を製図・実体化ーーした瞬間、撃ち砕かれた。

 たまたまの流れ弾、では無いだろう。

 けれど、エリクサーを狙うために、わずかにボクへの狙いは逸れた。

 ボクは自分の時間を加速させ、一気に距離を詰めた。

 駆動するチェーンソーを袈裟状に振り下ろす。

 MARK ⅡはMP5を投げ捨て、邪聖剣を両手持ちしてボクのチェーンソーを受け止めた。

 地球で剣道とかやってた動きではなさそうだ。まだ、剣での戦いの方がマシだろう。

 【エターナル・コーティング】をされた不壊の刃同士がせめぎ合う。断続的な金属悲鳴と目映い火花が飛び散る。

 ボクは勝負に出た。

 エルシィの光魔法を感染させた【降雨】を再び降らせる。

 光の柱が、天から何本も墜ちて、荒野を更に打ち砕く。

 だがMARK Ⅱは怯まない。

 身の置き場もないほどの光雨の間を流れる足捌きで潜り抜け、ボクの周囲に纏わりつく。

 ボクに当たらないようになっている魔法を相手に賢く立ち回る場合、ボクの近くに釘付けとなると言うことだ。

 とにかく、銃の間合いにしない。

 同時に、なるべく剣も届きづらい中距離と、チェーンソーのプレッシャーを与えられる近距離との往復を維持したい。

 そして、光雨を避けるために移動が制限される彼の隙を伺い、頭部を破壊する。

 MARK Ⅱは再び邪聖剣を片手持ちにすると、空いた手で拳銃を抜き、同瞬にボクの頭めがけて発砲。

 これは予想通り。銃弾はあえなく光華となって散った。

 そして。

 MARK Ⅱは邪聖剣をこちらへ向けて突き付けて来て、

 剣が蒼白く光る。

 

 剣から野太い光条が伸びて、ボクの心臓を貫いた。

 見ればその光線は剣の柄からも伸びていて、MARK Ⅱの心臓も貫いていた。

 

 何を、考えている?

 ……血が、急速に失われていく。

 MARK Ⅱだって同じだろう。

 けどこんなの、心臓が消し飛んだくらいなら、光が消えてからいくらでも回復ーー、

 ーーまさか。

 光が消失する気配は、ない。

 すでに言うことを聞かなくなりつつある身体を逃がそうにも、光は執拗にここを狙って追ってくる。

 言うなれば、ビームサーベルのようなもの、か。

 光とは万物で最速。

 逃げることは、不可能だと、さっき、他ならぬボクが言った。

 照射されたままでは、回復してもまた消し飛ぶだけだ。

 それはMARK Ⅱの方も同じで。

 彼は、ゆっくりとボクの方へ歩み寄ってきた。

 

 もうひとつ、おもいだした。

 

 彼の口が、その形に動いたのを確かに見た。

 そして。

 MARK Ⅱはボクもろとも光の串刺しとなったまま、ボクを抱きしめた。

 頭を撫で、抱え込むように。

 現在進行形で殺されてる相手なのに、すごい、大事にされてる感じがする。

 そうか。

 これが、人に抱きしめられるってことか。

 

 意識 曖昧に なってきた

 たぶん ボクら 同時に 死ぬ

 

 

 

 ごめんエルシィ。負けちゃったよ。

 ……負けたというより、この戦い自体が双方の自滅行為でしたけどね。

 そうかもな。

 それと、自分にごめんって言うのもヘンですしね。

 ああ。

 いいですよ。

 レイさんには生きていてほしかったけど。

 しかた、ありません。

 

 わたしボクたち、これからどこに行くんでしょうね?

 でも。

 最後の最後、わたしは幸せでしたよ。

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