第29話 消化試合

ンバイ・シェ・デューン

【力:200(200) 体力:144(150) 知力:50(50) 反応:47(70) 器用:200(200)】

 

 凶悪殺人犯だけあって、ステータスはきっちり出回っていた。

 ビンゴ。やっぱり、力の君臨者だ。

 そして、器用の君臨者でもあったみたいね……。

 成り行きとは言え、ボクがあのダンジョンで頑張った意味が……決して無くは無いけど、すげー損した気分。

 全体的に高くまとまっていて危険な臭いがプンプンするけど……もう、別の君臨者を探すモチベのほうが正直無い。

 あと、ここまで解っていても、巡回ルート外の仕事はしない衛兵(※一部、恣意しい的なルート変更あり)ホントクソだな。

 

 ンバイは、このステータスのドワーフって事実が如実に語るように、天才的な鍛冶屋だった。

 ドワーフとしては並の人間程度にはアタマもいいし、エルフの知恵を借りなくても良い作品を作ってたみたいだね。

 それで何かをこじらせたのか何なのか。

 辛うじて“死の館”から生存したヒト達が口を揃えて言ったらしい。

 ンバイは、一番良い武器を求め続けている。

 同時に。

 ンバイは、自分の武器にとって一番良い犠牲者を求めるようになった。

 殺すために武器を作り、武器を作るために殺す。

 その螺旋状に閉じた思考に取り憑かれ、正気を失ってしまった。

 ふ~ん。

 そうなんだー。

 

 ボクは火炎放射器を“死の館”に噴き付けて炎上させる。

 外周をぐるりと、念入りに。

 いや、わざわざ“死の館”だなんて、ヤバい呼ばれ方してる建物に入る理由、無いじゃん?

 器用カンストの、しかも一番アタマの良いドワーフのおうちだよ?

 どんな即死トラップ満載の有り様になってるか、わかったもんじゃないでしょ。

 これ、ゲームじゃないんだから。

 ダンジョンを律儀に攻略して、真正面からボスに挑戦とかあり得ない。

 で、お馴染みのドワーフ合金がアクセントに入ったアンティークな洋館は、盛大に燃え盛って黒煙をぶちまける。

 そして、はい、血相を変えて出てきました。

 でっかいリアカーみたいなのに、わけわからんドワーフ武器を沢山搭載した、黒い肌のドワーフが。

 あのリアカー、目算500キロはあるのかな?

 力の君臨者の躍起面目だね。

 でも、さすがに全てを持ち出す余裕は無かったでしょう。

 これで、初動からかなり奴の手札を減らせたはずだ。

 

 さて、結論から言えばくどくど語る価値もない戦いだったよ。

 確かにボクの倍か、ともすればそれ以上の筋力は脅威だよ?

 単純に、問題は、打撃の重さだけでは済まなくなっている。

 例えば長さ7メートルの大鎌とか、軽々ぶん回して来るんだから。

 普通なら要塞に据え置くようなバリスタとか投石機をフツーに携行してぶっぱなすし。

 このアイディア、いただき。あとでエルシィに設計図アカレコってもらって、ミニガンとか作ろう。

 ああ、ロケットパンチみたいなガントレットを飛ばして来たのにもセンスを感じたよ。

 もう、あそこまでの怪力が備わっていると、戦術の条理自体が異次元だね。

 こりゃ、館から逃げも隠れもしてないのに、誰も手出しできないはずだよ。

 唯一対抗できるであろうエルダーエルフにしても、ここまで面倒なこいつにちょっかい出す理由、ないし?

 でもね。

 ボクからしたら「だからなに?」としか言えなくなっていた。

 何かさ、この君臨者狩り……進めれば進めるほど、後になればなるほどんだよね。

 こちらの200ステはどんどん増えてくのに、ターゲットのそれは、せいぜい二種が関の山なんだから。

 まー、これゲームじゃないし。

 後半になるにつれて難しくなる道理もない、ってとこかな?

 そんなわけで、アレコレあった末にチェックメイト。

「あ……あぁ……その武器は、俺の肉質とすごくフィットしそうだ!」

 仕上げのために構えたチェーンソーを、いたく気に入った様子で。

「俺を殺す武器は、それが理想的かもしれん! 今すぐに試してくれ」

 負け惜しみなのか本気の性癖なのか。

 どっちでもいいよ。

 さっさと死ね。

 ボクはンバイの首を、鮮やかに斬り飛ばした。

 

 

 

 ンバイの“魂”難なくゲットー。

 戯言を聞くのもダルいので、さっそく、こねてのばしてまたこねて。

 チェーンソーの中でミックスジュースの一部になってもらった。

 これで、いよいよ残るは【知力】のみ。

 全部集めたら、何がある事やら。

 楽しみだね。

 で、後は誰を狙うかだね。

「エルシィ。キミのおばあちゃん、知力が200あったりしない?」

 一応、コネが頼れるか試してみる。

 あと、これを訊いてエルシィがどんなリアクション見せてくれるか、実は常々楽しみだったんだ。

「……わたしのおばあさまは、知力の君臨者

「ホホーゥ! じゃ、殺っていい?」

 この場ではノーが返ってくるのはわかってるけどね。

 何か最近、彼女をわざと困らせるのが楽しい。

 難易度高めだから、達成感あるっていうか、

「おばあさまは、もうこの世にはいません」

 ……。

 あら、そういう事?

 ホントに?

「レイさん。わたしを【分析】してください」

 何で?

 何で、そんなムダなことをしなきゃいけないの。

 意味ないじゃん、そんなの。

 

エルテレシア・トライアード(エルシィ)

【力:18(50) 体力:23(50) 知力:200(200) 反応:45(100) 器用:116(130)】

 

 ……え?

 知力、200になってるんだけど?

 

 知力の君臨者は……ずっと、ボクの隣にいた。

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