第30話 下準備~エルシィと一緒になるボク~
違和感はあった。
例えば、わかんない事があったらナチュラルに“越次元してアカレコる”って言ってたけど……エルシィもボクも。
エルシィって、前からそんな便利な存在だったっけ?
いやさ、元々便利すぎたから、ボクからしたらわかりにくかったんだよね。
そう言う会話が出てくるようになったの、いつからだった?
……。
…………ロレンツォのダンジョンから脱出して、再会してからではなかったか。
逮捕されてからその瞬間まで、ボクとエルシィの間には一週間強のブランクがあった。
それまで彼女は、何をしてたのだろう?
「エルダーエルフには“知識相続”というものがあるんです」
なにそれ。
「エルダーエルフの魔法には、記憶を情報化して共有するものがあります。
原理は割愛しますが、それができるエルダーエルフって、二親等までの親族に自分の知識全てを継承させられるんです。
これは、きちんとエルダーエルフの法律でも管理されてます。
知識を財産として。
エルダーエルフには“旅立ち”というものがありまして、知力の種族限界が200である現世から離脱し、更なる真理を求めるために肉体を捨てる……自死する君臨者が大半なんです。
自分の子に現世での全てを捧げて、自分が旅立った結果ダメだったとしても、次の子がなしとげてくれるかもしれないって感じで。
それで、わたしの両親は祖母より先に“旅立ち”ました。
だから祖母ダリアネラの知識相続権があったのはわたしだけで、それで、祖母はあなたが逮捕されてわたしが実家に帰った時に“旅立つ”ことにしたんです。
いろんな事情から。
それでわたしが、祖母の知識を相続したから、君臨者に相当する【知力】になりました」
……。
地球での、特殊詐欺の仕事でわかった事がある。
やましい本心を隠すのがヘタな奴の特徴。
頼んでもないのにベラベラベラベラ、ムダに饒舌になるの。
とにかく、この話が本当なら、腑に落ちる事がひとつある。
そこら辺のエルダーエルフに、知力の君臨者がやたら多かった事だ。
単体でも滅茶苦茶な知力を持つ種族。
そいつが一生かけて学んだ成果を、子や孫に受け継げるとするなら。
そりゃ、楽勝で種族限界の200になるでしょうよ。知力。
インスタント君臨者とはこの事だよ。
「で、何がいいたいの」
ボクのイラっときた機微に気付いているのか、いないのか。
彼女は、おとぎ話の魔法使いよろしく、何かをこの場にテレポートさせた。
桶と、何か木製の治具? 台座? とにかく“何かを置く形状の”ものなの。
「わたしを、斬ってください」
は?
「そして、完全な“均衡の守護者”になってください」
「はぁ……」
こう言うとこだよ。
「わたし、最初に言いましたよね? 途中のプロセスで色々むずかしいこと、あるけど……あなたとなら、どうにか幸せになれそうって」
俺が、お前らエルダーエルフを嫌いなの、そう言うとこだよ。
「はじめに思ってた形とはだいぶ違うけど……これはこれで“一緒”になるってことですし」
超速すぎる論理展開で、相手のこと置き去りにして、一人で勝手に納得してんの。
で、それを失礼だとか悪いことだとか、そもそも認識する機能が欠損してんの。
大体、額面上の知力がカンストしたくせに、相変わらず頭が悪いの?
お前程度の知力のエルダーエルフなんてそこらじゅうにゴロゴロ存在してて、やろうと思えば一匹くらい余裕でぶっ殺せるんだよ。
……エルシィは、恐らく何があってもこちらの味方だ。
最初から「結婚しよう!」ってくらい、好感度マックスだったし。
言う事は何でも聞いてくれた。
耳を切り落としたり、燃やしたり、オーパーツな武器を作りたいって言ったときも何だかんだで。
……エリクサーちょうだいってのはまあ、それなりに渋られたか。
となると、彼女は駒として手元に置いて、他のエルダーエルフ狩ったほうが道理に叶っている。
だから。
チェーンソーで、エルシィの首を斬り落とした。
ああ、あれだけ猛威を振るった女の身体が、首と分断されて役立たずに成り下がった。
何だろう。
何となくだった。
けど、強烈に、思ってしまったんだよね。
エルダーエルフを取り込まなきゃならないなら、
エルシィじゃなきゃ、なんかイヤだって。
彼女の“魂”が、チェーンソーを通して流れ込んで来る。
すげー、非効率的な事をした。
けどまあ。
エルシィよ。ボクの中で生き続けろ。
……。
……、…………てのは少し不正確かな?
えっと。
フョードル、サンドラ、ロレンツォ、ンバイ。
こいつら、もう要らないから、チェーンソーの
あーあ、もったいね。
奴らの魂に支えられていた200ステータス、これで全部おじゃん。
あっけないね、ヒトの“魂”ってさ。
で。
ボクの中で生きるとかしょっぱいこと言わないで、
ボクそのものになりなよ、エルシィ。
いつか、フョードルとサンドラの混合物にそうしたように、ボクは彼女の魂に自分の身体を差し出した。
あの時は浅ましい畜生どもが、ボクを乱暴に引きずり下ろそうとしたけど。
エルシィの“それ”は、ふわっと、やんわりと、ボクを抱き寄せるようだった。
彼女はボクに魂をくれたので、ボクは身体をあげる事にしたよ。
そして。
レイ=エルテレシア
【力:100(100) 体力:100(100) 知力:200(200) 反応:100(100) 器用:116(116)】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます