第28話 消防戦士ファイアファイター

 【器用】が200の世界って言うのは、なんだろう?

 当たり前だけど、指先が凄く精密になる。って言うか100の時が分厚い手袋してるように思えると言う方が近いかな?

 今まで良く、こんな状態の手で生活できてたな、と言うか。

 それは勿論なんだけど、頭が凄い冴えてる感じもする。何と言うか、思い付いたり気付いたりって言うのが凄く鋭くなっている。

 これって一見して【知力】の領分かな? と思ったんだけど、あちらは論理面での事なんだろうね。

 こっちは動作性の頭が良くなった感じがする。

 で。

 ドワーフ武器って、頭のいいエルフと合作する事で真価を発揮するわけじゃん?

 今また、エルシィが近くにいるわけじゃん?

 しかも、ボクには現代日本の知識と言う、他のヒトには無い発想があるわけで。

 エルシィが検索しアカレコってくれれば、足りない“地球知識”も補えるし。

 結果。

 ボクは赤色塗装のヒーロースーツを着ていた。

 ヘルメットには、これまた血のように深い赤色の魔石が。

 背中には大きなバックパックのようなものを背負い、左右からホースが伸びている。

 

 正義のヒーロー・消防戦士ファイアファイターだ!

 カンカン! カンカン! ウーウー!

 

 深夜。

 森の中、頭の魔石パトライトを回転点灯させ、やかましくサイレンを鳴らしながら、正義のヒーローが練り歩く。

 やり過ぎて逆に引かれるかな、と危惧したけれど。

 明らかにヤバそうなヒトを避けると言う【知力オツム】の無い奴ってそれなりに居るらしい。

 ボクらはたちまち、野盗どもに包囲された。

 彼らにとって、命よりも目先のカネのほうが大事らしい。

 単純に、安眠妨害に対するムシャクシャもあるのかな?

 ダメだよ、そんな理由でヒトを殺しちゃあ。

 ボクはまず、右のホースを振りかざす。

 真っ白になるほど凝縮された、超高圧の水圧カッターだ。そう言う理論を込めた“魔石”が内蔵されているので“リソース”は無限。尽きる事は無い。

 軽々と次々に引き裂かれていくワーキャットだのハンターエルフだのの有象無象ども。

 この水圧カッターの有効切断長さは10メートルにもなる。

 ただでさえ森の中を活動拠点とするこいつらは、短剣・手斧と言った、取り回し重視の短リーチな武装が多かったから、間合いに入られる前に細切れにしてやれた。

 けど、さすがはさすが。

 オークやドワーフと言ったタフな種族は、血だらけになりながらも、なお、こちらへ躍りかかって来た。

 次、左のホース。

 固体のように濃密な炎が、野盗どもを包み、たちまち火達磨に変えた。

 目視ではわかりづらいけど、エルダーエルフ印の可燃性粘液が噴射されており、もがいても何をしても、炎は簡単には消えない。

 たちまち恐慌に陥った森の野盗連合軍は、がむしゃらにボクへと襲いかかるけど、ボクはそれを、水ホースor炎ホースの好きなほうで作業的に処理していく。

 邪魔する奴は火炎放射器でダウンさ! 汚物はもう、死んでいる!

 消防士って英語でファイアファイターって言うんだけどさ、これぞまさしく、炎で戦う戦士ファイアファイターだよね。

 し、か、も。

 水圧カッターの方は圧力を下げれば、消火用ホースにもなるから、延焼してもアフターケアはばっちり!

 よし、今度は。

 右手から水圧カッター。

 左手から火炎放射器。

 炎と水が合わさって最強に見える!

 ……見えるだけ、だけどね。

 このスーツ、頭悪すぎて超ウケる!

 あー……森に延焼しすぎた。消火ホースでは鎮火が追い付かないや。

 やばい、大火事になる。

 エルシィに消してもらおう。

 ちょちょいのちょいで森林大火災を鎮火したエルシィ。ボクを見る目が、やっぱりちょっと冷たい。

 

 ボクだって無意味にこんなことをしていたわけではない。

 力の君臨者を効率良く誘き寄せるための戦略も兼ねていた。

 どうせ相手が野盗なら、誰も文句言わないし? 倫理的にもオッケーでしょ。

 殺すならやっぱり、犯罪者に限る。

 実際、反応:200のハンターエルフ“殺人長老”なる通り名のおじいちゃん盗賊がこれにかかった。

 まあ、ダブりだから無意味だけどね。

 君臨者ガチャってのも、甘くはない。

 でもまあ、思ったほど賢いやり方ではないと気付いた。

 君臨者になれるほど何かしらの能力に恵まれてりゃ、野盗なんてザコにはならないよね。

 そもそもこの作戦、知力:200のエルダーエルフと鉢合わせる事はまず無いだろうって意図もあったし。

 だから、このスーツもお蔵入りかな。

 ボクらは森を出て、海沿いの街道を真面目に歩く事にした。

 今度は、お掃除ロボットルンバに名剣を仕込むとかどうだろう。

 地形と野盗ゴミを自動検知して、勝手に斬殺してくれるの。

 昔、実家にいた猫が、よく動くルンバの上でくつろいでたっけな。

 動くルンバ♪ う、ご、くルンバ♪

 って歌いながら、殺人ルンバに乗るのも風情がありそうだよね。

 ……エルシィがどこまで協力してくれるか次第、だけど。

 

 一菱いちりょう一周旅行は、結論から言えば毒にも薬にもならなかった。

 ただただ、外周沿いに色んな集落を見物しただけ。

 ちなみに都市もいくつか見た。

 いかにもな魔法学校を中心に発展しましたって都市とか。

 運河の巡る都市とか。やっぱ、ゴンドラ乗せてもらえる観光スポットがあったね。

 大陸一高い山にも登った。

 ボクら、登山ナメてるとしか思えない平服姿だったけど、エルダーエルフ一人いれば登山装備なんていらないんだよね。

 逆に、懸念(期待?)していた“山賊”って奴もいなかった。まあ、そりゃそうか。

 何気に地形無視で歩けるのも、エルシィといるメリットではあると気づいたよ。

 で、頂上にエルダーの集落があった。

 草木もない、微妙な灰色の入り交じった景色の中、四六時中瞑想してるヒトばかり。

 真理の探究とやらがそんなに面白いのか、ほとんど相手にもされなかった。

 見た感じ不死者リッチ化に手を出してるのもいたけど、こんな場所の、それもエルダー様々の集落で俗世の法律なんてクソ食らえなんだろうね。

 ちなみに知力:200の君臨者が結構ゴロゴロいたけど……これだけ怠惰に動かない連中だ。やりようによっては勝てる……か?

 まあ、自殺行為だろう。

 ひとつわかった事がある。それだけでも今はよしとするよ。

 当然っちゃ当然なんだけど、各種族や集落の人口に対する君臨者の比率ってステータスごとに違うよねって感じ。

 エルダーエルフは、結構、君臨者が多いみたい。

 ドワーフが力を極めるのと、エルダーエルフが知力を極めるのとでは大変さも違うのかな。

 となると、最後の【知力】については、相手を選ぶ余地が多そうだ。

 で、まあ。

 あとは、エルシィが旅の終始ニコニコしてたくらい。

 ……ボクの新作武器を作る時以外は、だけどね。

 何がそんなに楽しいんだか。

 

 そして。

 最後に訪れたドワーフの、そこそこ裕福な集落。

 殺人鬼ドワーフの住む死の館……と言う、B級ホラーじみたスポットを発見。

 そこの主、ンバイ・シェ・デューンが力の君臨者である事は、すぐに知れた。

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