ブレイブ・ジャスティスの記録04

 ロレンツォが死んだようだ。映像が途絶えた。

「グスッ。レイはダンジョンを制覇した。恩赦だ。良いか?」

 僕の背後、マネキンのように立つヴァーミリアに対話する。

 鼻声ではあるが。

「はい。再度、エルダーエルフの庇護コントロール下に戻すのがいいでしょう。

 エルテレシアの祖母は、私の20年来の友人ですから、ただちに連絡が取れます」

 ほう。見掛けより、かなり経年数を重ねて居るのか。

 大方、あのエリクサーとやらの薬効か。

 それはどうでも良いが、最低限度のワードでこちらの意図を正確に汲み取るスペックには満足して居る。


 僕はロレンツォの部屋へ、レイを回収しに来た。

 ロレンツォと言うターゲットを失い、無作為に暴れまわっていた怪人レザーマスクを、ヴァーミリアが何らかの術で停止させる。

 僕は、最早無用となった皮マスクを彼から剥ぎ取った。

 流石の君臨者憑依+時間凍結で防いだと言っても、熱傷で見る影も無く腫れている。

 だが、骨格を見れば紛れもなく彼だ。僕には解る。

 しかし、このままでは、レイは自発的な行動が一切出来ない。

 エルダーエルフの回復魔法かエリクサーでも無い限り、時間を再動させた瞬間に死ぬだけだ。

 信頼出来るエルダーエルフが回収してくれる事を当て込まねば、死ぬ事の先送りに過ぎないやり方だ。

 それしかダンジョンクリアの手立てが無かったからなのか。

 それとも。

 ヴァーミリアに回復させるか……一瞬思ったが、それは酷く無粋な事に思えた。

 僕はこれから、もっと“ボク”を理解しなければならない。

 だから。

 僕は、レイを姫君のように抱き上げる。

 思ったよりずしりと来る重みだ。

 結局。

 彼の事は、ズタボロで停滞したままエルテレシアに送り届ける事にした。

 

クリスタ・ガリア・メセ

 【力:200(200) 体力:24(150) 知力:1(50) 反応:1(70) 器用:200(200)】

 

 首都郊外の、小さな工房に、そのドワーフの少女は居た。

 僕が【分析】を掛けた事に対して、全く反応は無い。

 ドワーフ族の例に漏れず骨太な短身だが、最低限度しか食べて居ないのだろう。不健康に痩せて居る。

 薄金色の長い髪プラチナブロンドを粉塵で汚した少女は、黙々と只管ひたすらに、武器を作り続けている。

 彼女ーークリスタには、それしか無い。

 初めは首都の鍛冶屋で雑用をさせられて居た。

 だが、その人智を超えた製造センスは、彼女を下働きには留めて置かなかった。

 無造作に散らばる彼女の作品を見てみる。

 大半は、使えた物では無かった。

 それこそダンジョンの巨人ジャイアントでも無ければ掴む事すらままならない物や、振り回すだけ自分を傷付けかねない武器など。

 元よりドワーフが単独で考えた武器は、使用者への配慮が欠けがちではある。

 だが、クリスタのそれは次元が違うと解る。

 彼女の中に、人間工学と言う言葉は微塵も無い。

 ヒト等、眼中に無い。

 だからクリスタの作品は、実用性と言うよりは芸術性を求めて買われる場合が多いようだ。

 偶々たまたま、ヒトが使える武器が生まれた場合、それは伝説級の名剣等になると言う。

 見れば、偶然の産物だろう。単分子ワイヤーと同質の物が床に転がって居る。

 僕は、腰に帯びていた剣を鞘から抜いた。

 黒檀の様に光沢の無い、深い闇を湛えた刀身が露となる。

 邪聖剣。

 ヴァーミリアが僕に持たせた、詰まらない剣だ。

 ダリアネラの予言には、続きがある。

 

 均衡の守護者は、一対のつがいである。

 番は互いの命を喰らい合う宿命にある。

 真なる守護者は勝利者。

 敗北者は邪神とされるだろう。

 それは、邪聖剣によりて審判される。

 

 僕には“邪聖剣”にあたる武器が無かった。

 予言通りであれば、僕とレイは最終的に殺し合う事になる。

 そして、勝利の鍵を握るのは邪聖剣。

 ヴァーミリアは、僕に勝利させたいようだ。

 だからを、僕に渡した。文字通りの付け焼き刃とはこの事だ。

 案外、エルダーエルフも稚拙な所がある。

 それはさておき。

 僕は抜き身の邪聖剣を手に、クリスタの前に立つ。

 ここまで一貫して、クリスタは無反応。

 僕が工房に入って来た事すらも認識して居ないか、興味が無いのだろう。

 先ほど始末した、彼女の召し使いすらも、無視され続けていたのかも知れない。食事には酷い混ぜ物をされた形跡があった。

 静謐。

 その言葉を具現化したようなヒトだ。

 そう思った。

 

 僕は、邪聖剣でクリスタの胸を刺し貫いた。

 

 クリスタは、無反応。

 だが、ドワーフの骨格を完全に把握している僕の剣は、肋骨を通り抜けて確かに心臓を突き破った。

 致命的な流血を伴い、クリスタは、燃料が尽きたかのように倒れた。

 “魂”が、邪聖剣を通して僕に取り込まれる。

 力と器用の君臨者。

 無抵抗の少女を殺すだけで、一挙両得だった。

 薄汚いハンターエルフの射手や、伝説のオークとやらに混ぜるのは……些か忍びなかったが。

 

ブレイブ・ジャスティス

【力:200(100) 体力:200(100) 知力:100(100) 反応:200(100) 器用:200(100)】

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