第26話 ゲームオーバー
【レイ HP:666,666】
何かトップランカー的なパーティにもスカウトされて、ボクは順調に最上階へ到達していた。
HPに惑わされる気は無いとは言え、それなりに無いとまずいので、調整もした。
素肌に肉屋風の革エプロンと言う、どの客層を狙ったのかわからない服を装備したら、見た目もHPも良い感じになった。
マスクもエプロンも、使い込むほどに返り血が程よく染み付いて、仕上がって来た。ヴィンテージだね。
さて、ラスボス・ロレンツォ戦に向けた最後の分析だ。
まず、あれから相当数“HP:0”の事例を見てきた。
ヒトにしても、モンスターにしても、だ。
やっぱ“爆死”と言うには、地味な絵面だね。
外から火花や煙は見えない。身体の内部の、必要な部分を最低限の
言うまでもなく、ダンジョンや他生物に必要以上の被害を広めないためだろう。
運営側は囚人に戦死はしてほしくても、つまんない死に方はしてほしくない。
それに、人間爆弾作戦をやられると、ゲームが最初に想定した趣旨と違っちゃうし。
で、魔法が作動してから爆死までの時間帯には、犠牲者の個体差が大きかった。
丈夫な奴ほど、何度も爆発していた。
文字通り、死ぬまで爆発を繰り返すのだろう。
死体が消える撤去システムを見るに、生命反応の検知は正確にできるみたいだし。
そうなると、女王サンドラを
いくら耐久性が倍になっても、臓器を執拗に発破され続ければサンドラでも死ぬだろう。
あと、爆死と言えば、階層が上になるほどHPの方を削る重要性が高くなっている。
何せ
物理的に勝負するには、分が悪すぎる。
やっぱ、このダンジョンの運営チームは皆性格が悪いね。
最上階で戦える“上手い”ヒトほど、無謀でバカげた戦い方をするように仕向けられている。
実際に腕の一本が千切れても、HPに余裕があると、あまり痛そうにしてないんだよね。
で、度数96パーセントのウォッカみたいなポーションで“全回復”して、安心してるの。
見た感じ、明らかにアル中みたいになってるヒトもいる。
それでなくても、命がけの戦闘が、なんかパリピの飲み会みたいなバカ騒ぎになってんの。
もちろん、肉体の欠損は【緩慢な治癒】とかでくっつけてはいるし、そこまでリアル重傷負ったヒトは拠点に帰すくらいの正気は保っているみたいだけどね。
あと、他人のプレイを眺めて気付いた事は……やっぱ装備かな。
とにかく、HPの増強が第一。次点で、一応、動きやすさとかの機能性。
その結果、ハロウィンでも見られない妙ちくりんな格好のヒトしかいなくなっている。
特に半裸率とフルフェイスのかぶりもの率がハンパなく高い。
なんかさ、前にネットのネタ画像で「タダで手に入れたアイテムをとりあえず装備する無課金プレイヤー」ってのがあったんだけど……リアルにあんな感じなの。
そう言えば1階で襲ってきたワーキャットのメスとドワーフのオスの時に思ったんだけど。
ヒモ同然の“あぶない下着”の猫と“あらくれ”ファッションのあいつらね。
着るものにHP補正がついてて、物理的に薄着でもHPが高ければ、見た目度外視で装備する価値はある。
それはわかるよ。
特にワーキャットの方は、800,000超えと言うHPの高さから察するに、かなりの良品なのだろう。
敏捷性を武器とする種族だし、その長所を潰さずに、なおかつ、ゲームシステム的に堅牢になるあの装備は最適解かもしれない。
でもさ。
下着の上から、別の防具着ればもっといいんじゃない?
……と思ったのはやっぱり甘かった。
重ね着は無効、だそうだ。
それと、武器。
あれからも色々とドワーフ武器を手に入れたけど、ホントに! ロクなのがない!
例えば、一見して普通の直剣なんだけど、HPの残量が半分を切ると質量が倍加して
軽装備と重装備をスイッチできる、と言えば聞こえはいいけど、大剣を得意とするヒトにとってはHPを常に半減させなきゃいけないリスクがヒドすぎる。
かといって片手剣を専門に扱うヒトからすれば、HPが半分を切るピンチと同時に得物が不馴れなものに変身してしまうムダな追い討ちまで食らうわけで……。
きっとピンチになると強くなる武器! 強いと言えば長くて重い武器! って発想なんだろうね。
まだマシだったのは“刀身が凄まじい勢いで射出できる巨大
プレートアーマーの上からモンスターを物理的に粉砕していたから、一回の戦闘に一度だけの切り札と割り切れば、まあ、って感じ。
結局、その後の
何と言うか。
ドワーフに好き放題武器を作らせると、やっぱ「品質は神なのに仕様がクソ」と言うモノに成り下がるようだ。
いや、性能がクソなだけならまだいいよ?
たとえ力:200ドワーフであっても振り回せない巨大ハンマーだとか、柄が握れないほど太い剣だとかをナチュラルに作るんじゃあないッ!
ボクが最初に拾った等価の天秤にしても、フョードル並の知覚力がなきゃ、同時に二人の首を締めるなんて無理だよ。
まあ、これは使い方次第でサイコーのオモチャになりそうだから、ここを出ても末長く愛用しますけど。
でもまあ。
等価の天秤みたいな洒落たコンセプト、ドワーフごときには思い付かないよね。
って考えると、モノによってはエルフがちゃんと監修している可能性もあるね。
つまり、エルフはエルフで悪乗りして作ってやがるんだ。
で。
それこそ、何の仕掛けもない“はがねのつるぎ”みたいな、シンプルな武器もあるんだよね。
運営側もアイテム考えるのがダルくなる時がたまにあるのだろう。
最初にボクを襲ったあらくれドワーフの持ってたドッキング斧もマシな部類だろう。
要は簡素な武器でも、HPに対するシステム的な攻撃力が高ければいいし。
したがって、使い勝手の良い武器ほど真面目になる。
たまーに手抜きで作られた“はがねのつるぎ”が、名実ともに超レアアイテムになってんの。“等価の天秤”だとか、凄そうな武器は二束三文のゴミアイテム扱いで。
武器と防具、この二つの事実を統合すると。
上位のプレイヤーほど、イカれた服装で真面目な武器を持っている、と言う事になる。
もはや、正気を保っているのがボクしかいなくて疎外感を感じるね。
で、いかにも重厚な観音開きの扉がある。
「挑んじゃう? マジでオレら、魔神王に挑んじゃうの!?」
「いこういこう! あたしらが力を合わせれば瞬殺だよ!」
ワーワー、うおおおお!
ポーションでベロンベロンに酔っぱらった上位ランカーどもが、魔神王の部屋へと雪崩れ込む。
そいつはすぐに見つかった。
見逃しようもない。
ただでさえ広大な空間に、これまた建物かってデカさの鎧が設置されていたからだ。
材質は緋色……ドワーフ合金だろう。
形状は
人間で言う頭部にあたる部分はバルコニーのようになっており、そこに短身頑躯のいかにもなドワーフが鎮座。
こいつが、魔神王こと、ロレンツォだろう。
何やら占い師の使うような水晶玉? を大事そうに抱えている。
鎧は、まるで生きているかのように、微妙に身じろぎしている。
なるほど。
そー言うスタイルなんだろう。
今から、嫌と言うほど見せられるはず。
「魔神王! 死ねぇ!」
一直線に進軍する、ボクのパーティメンバー達。
あーあ。
自分達で言ってたじゃんよ。
魔神王ロレンツォの部屋から帰ってきたヒトは一人もいないって。
《おおっと! 君たちは、“破滅の光”の罠を踏んでしまった!》
ロレンツォが小馬鹿にした事を宣った次瞬。
ピカッとフラッシュが焚かれた。
それだけだ。
身体に異常は何も感じない。
けど。
トラップ“破滅の光”が作動!
レイたちに平均999,999のダメージ!
【レイ HP:0/666,666】
全身を、内側から食い破られるような激痛が走った。
熱したハンドミキサーで混ぜられてるような、洒落にならない痛みだ。
ァアああ、がっ、が……あがっ……。
ボクは前のめりに倒れた。転んで全身を強打した痛みなんて、この内側を執拗に食い破られる痛みに比べれば蚊みたいなものだ。
やっぱり……こうなったか……。
ボクはゲームオーバーになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます