第23話 ダンジョンと言う名のテーマパーク兼処刑場

 ダンジョン刑、と言うものが五年前に出来たらしい。

 全10層の巨大地下迷宮を、囚人に攻略させる刑罰だ。

 トラップ、モンスター、そして囚人同士のPKころしあいもかな。

 これら全てを乗り越えて、最上階のボス“魔神王”にすれば、その囚人には恩赦が下る。

 と言うのが、基本的なルールだ。

 ただし“魔神王へ到達”の意味合いは、プレイヤーによって異なる。

 このダンジョン刑の囚人は大きく分けて三種類ある。

 魔神王の前まで辿り着けばゴールとされる“一般囚”。

 魔神王を倒すとこまでゲームをやらなきゃいけない“極刑囚”。

 そして、ダンジョン攻略の必要が無く、お店やガイド役と言った雑務を刑期分やらされる“運営囚”。

 ボクかい?

 もちろん、極刑囚と言われたよ!

 ちなみに、犯罪者に限らず、自主的に一般囚となってゲームに参加する事も可能らしい。

 一般・極刑の区分に関わらず、ゲームクリアすると500,000PGとか言う頭の悪い額の賞金がもらえるらしい。

 また、“宝箱”には何かしら、ドワーフ製の武器が入ってるらしいし。運良く良品が手に入れば、それだけでも結構な収入になるだろう。

 これぞ、ハクスラ要素っすね。

 まあ、このダンジョンの存在理由は明らかだよね。

 ドワーフとエルフの技術にモノを言わせて、コロッセオに並ぶ娯楽を造り出したってトコだろう。

 壁面に刻まれためっちゃ微細な中二病な模様と言い、そこに織り混ぜられた緋色のドワーフ金属と言い、出生はあからさますぎた。

 右往左往するプレイヤーの姿はどっかで撮影されてて、それを笑い物にしてる観客が、これまた安全圏にはいるのだろう。

 

 で、問題はもうひとつある。

 囚人プレイヤーの生死は、肉体的・物理的な“健康面”とは別に、“HP”と呼ばれる、奴らが勝手に決めた変数でも管理される事だ。

 具体的には、HPが0になった瞬間、そいつの主要な臓器全てに常駐した発破魔法が一斉に炸裂し、ゲームオーバーにされると言う寸法だ。

 つまり、現実に受けた損傷とは別に、このシステム的な生命力であるHPの管理も別途、必要とされると言う事だ。

 エルダーエルフの回復魔法やエリクサーでも隠し持っているならともかく、今のボクには、そのどちらももう手元に無い。

 肉体的にどれだけ壮健であったとしても、HPが尽きてゲームオーバーになれば、そこまでだ。

 いかなる手当ても、間に合うまい。

 これに関しては、そうでもしないとオーク族が有利過ぎると言うパワーバランスの事情もあるのだろう。

 ちなみにボクのHPは初期値で150,000あるらしい。

 一見してめっちゃ沢山もらえたように思えるけど……いやらしいよね。

 例えば、現代日本における平均的な市民からすると、10万円って大金じゃん?

 けど、家を建てたり高級外車を買う時にオプションを付けるとなると、10万円くらい安いもんだと思ってしまうでしょ。

 根幹的な所でデカい数字を扱ってると、相対的な所での数字の大小に対して鈍感になってしまう。

 HPの場合、1と0の境目が生死を分ける、って理屈ではわかりきっているのにね。

 それに、残りHPが1であっても、物理的にピンピンしてればなおさら分かりにくいでしょう。

 その心理をわかっている上での数値設定だよ、これ。

 あと、特筆すべきルールとしては、各階層のどこかに必ず、最下層直通の“シューター”があるらしいと言うこと。

 最下層は運営囚による主要商業施設が設置された、プレイヤーにとっての拠点だ。

 なおかつ、最下層にはでっかいエレベーターがある。

 各階のシューターを通った瞬間、囚人ごとに、その階層への復帰が解禁されるそうな。

 あとはまあ、最下層の通貨もPGペンタゴンゴールドでオッケーなのは助かる。

 ボクがダンジョンで1からチマチマ金策に走る様を延々見せられたって、ぶっちゃけツマんないでしょ?

 HPの維持って言う新たな概念も絡んでくるし、物価は狂ってそうだけどね。

 

 あとは、最終目標である“魔神王”について。

 こいつがこのダンジョンのゲームマスターであり、このダンジョンの建築における総監督でもあるらしい。

 で、拠点の掲示板にデカデカと自分のステータスを晒してんの。

 使ってる紙がピカピカなあたり、常に最新情報を掲示しているのでしょう。

 

ロレンツォ・ディ・バイオ

【力:199(200) 体力:42(150) 知力:28(50) 反応:24(70) 器用:200(200)】

 

 うん。こんな大がかりなテーマパークを造っただけあって“器用の君臨者”だね。

 で、それよりも。

 妖怪“いちたりない”だよ!

 こいつの【力】があと1高ければ、こいつ一匹殺しただけで、二種の“君臨者”を一度に殺った事になっていたのに!

 あとはまあ……二桁あるだけ、すげー安心感なんだけど……大勢の命を握るヒトの知力が、たったの28ってのが引っ掛かるね。

 地球の皆もさ、小学生のころ、学習帳に自作のすごろく書いたことって無い?

 クラスの友達にプレイさせるためのさ。

 でさ、書いた事あるってヒトに訊きたいんだけどさ。

 ゴール付近のマスってどんな感じだった?

 

 もしかして“振り出しに戻る”のマスが乱立してたりしなかった?

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