ブレイブ・ジャスティスの記録02

 俺は、死にたかったのだと思う。

 あの時、嶋矢レイのマンションで死んだ時、漸く願いが叶った筈だった。

 だが、現実は。

 異世界で蛇足の様に、安っぽい第二の人生が続いて居る。

 生前のカルマが、俺を業苦に縛り付けて居るのだろうか。

 それとも。

 

 SATは、恐らく俺が唯一就き得た仕事なのだろうと思う。

 同僚同士であっても深入りしない。それが精神的に辛いと言う者も居たが、俺には最適な環境だった。

 だが、そんな組織にあっても、俺には“シリアルキラー”と言う渾名が付けられ、陰口を叩かれて来た。

 それでも。

 特殊急襲部隊だけが、辛うじて俺が生きる事を許された場所だった。

 国と組織の性質上、そう頻繁に戦闘があった訳では無い。

 ただ、数少ない突入任務に於いて、俺は遭遇した犯人の胸を100パーセント撃ち抜いて、例外無く殺害して来た。

 自分の本分に於いて最も効率的に動いた筈の俺は、しかし、晩年はかなり問題視されて居た。

 カウンセリングの受診すらさせられたが、何も病名は付かなかった。

 

 そして俺の地球人として最後の仕事。

 それが、嶋矢麗の立て籠り事件だ。

 嶋矢は元々、俗に言う半グレ組織に於いて、主に特殊詐欺に携わって居た。

 それがある日、どう言うロジックで豹変したのか、誰にも解らない。

 ある日突然、彼は両親と兄2名と祖父母の計6名を、盗んだゴミ収集車を用いて殺害した。

 次に“仕事仲間”の4人を人質に、先述の立て籠り事件を起こした。

 彼からの声明等は全く無かった為、建物内部の状況も不鮮明だったが……人質の生存は絶望的だろうと、俺は思って居た。

 建物を解体して余りある爆薬が配置されて居た事もとうに知れて居た。

 当然だが、上は突入の命令を下せないで居た。

 だから俺は、独断で突入を実行した。

 

 ヴァーミリアから視せられた映像が終わると、俺はらしくも無く溜め息を吐いた。

 俺には逃げて行く幸せなど元より無いから構わないだろう。

 視せられて居たのは、ヴァーミリアが魔法的に撮影させていた第七オーク・クランでの族長殺害事件の現場映像……言い換えれば、レイと女王サンドラの戦闘記録であった。

 この世界への順応が早い。

 第一に感じたのはそれだった。

 俺と同じ“使命”を持ち、君臨者のステータスを駆使出来る優位性。

 そして何より、初動からエルダーエルフと言う最強の護衛と巡り合えた幸運。

 かなり恵まれた状況である事を差し引いても、普通の地球人ではこうは行かないだろう。

 陳腐な表現になるが、殺しに躊躇が無い。

 慣れた、とかそう言う生易しいものでは無い。始めから欠損して居るとでも言うべきだろう。

 本来“躊躇”があるべき精神領域には、“創意工夫”が鎮座して居る。現代知識・魔法・武器・果ては板金鎧……そうした手持ちのカードを組み合わせて合理的に相手を殺す事を自然に出来て居る。

 “同業おなじカルマ”の俺からすれば、君臨者狩りとしては些か粗いとは思う。

 相手の選び方が場当たり的過ぎる。

 要は何らかのステータスが200でさえあれば良いのだ。

 それは極端な話、他のステータスが1に近い者を狙った方が安定して狩れると言う事。

 そして自分がその200ステータスを取り込んだ事実は、誰を殺そうと同じである。

 より弱い“君臨者”をまずは取り込み、それを足掛かりに自分の手札を増やして行くのが、この狩りに於ける最適解ではあるだろう。

 彼のやり方は、返り討ちに遭うリスクが高過ぎる。

 俺は今、ペンタゴンの地下ダンジョンにある“多目的拷問室”に居た。

 目の前には、小さなプールの様な物。

 俺は、滑車で大きな籠の様な物を巻き上げた。

 帯のような水が、籠から滑り落ちては消える。

 籠の中には、鉛色の肌をした、重量級力士のような男が一人。

 死んで居る。

 確か、常に強者を求めて森を渉猟しょうりょうして居た伝説のオークとやら、だったか。

 まともな手段で殺傷するのは困難だったので、眠らせて拉致し、溺死させた。

 この広い大陸で狙った一個人に遭遇するのも困難ではあったが、エルダーエルフの後ろ楯があればこんなものだ。

 俺の中に、彼の“魂”らしき物が、また入って来た。

 試しに憑依させて見る。

 

ブレイブ・ジャスティス

【力:100(100) 体力:200(100) 知力:99(100) 反応:100(100) 器用:100(100)】

 

 しかし。

 彼の一人称は“ボク”と言うのか。

 今時珍しく、言いにくい一人称だが……。

 僕……僕、か。

 慣れるまで、時間が掛かりそうだ。

 

 僕は次に“器用の君臨者”を探す事にした。

 彼が次に喰らうであろう君臨者と、同じモノを。

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