第18話 オークの賢人
首都の城塞から、
それを見計らったかのように、一人のオークがボクらを呼び止めた。
「ただのエルダーエルフでは無いとお見受けします」
めんどくさ、と思いながら一応振り返る。
やっぱ、ガタイは飛び抜けてイイね。
筋肉と脂肪のつき方は、ダンとヴェリスの見事なソレには及ばないけどね。
鉛のような肌でわかりづらかったけど、そこそこ老けたオッサンのようだね?
「失礼。【分析】をかけても?」
「構いません」
じゃ、遠慮無く。
第七クランのレヴァン
【力:80(130) 体力:112(200) 知力:50(50) 反応:90(100) 器用:47(50)】
なるほど。
一番頭の良いオークか。
また、そんなインテリでも、初期のボクより力で勝り、体力にも越えられない壁がある辺りが種族格差ってやつなんだろうね。
「アナタ、集落では“賢者”だとか呼ばれてるクチ?」
ボクが冗談めかして訊くと、
「滅相もない! むしろ、オークには何の役にも立たないステータスですよ。こんなものは」
ボク的に確定。
このヒト、ある意味では首都にいた雑魚エルダーどもよりは“賢い”よ。
自分の愚かさを弁えているんだから。
この辺の謙虚さもコミで知力:50なのか、そうでないのか。
何か、そう考えるとますます【知力】の基準ってわかんないよね。
エルシィみたいな教養オバケで、インテリジェンスがいまいちアレなコもいるし。
彼女の知力:146の内訳って、何なんだろうね? とはずっと思ってる。
まあ、これ以上の考察は横道だ。
「ボクらに何か用かな?」
名前にクランが入っている以上、地方の出身。
都市オークではない……つまり、コロッセオでのいざこざとは無関係、のはずだ。
ただ、さっきボクがチェーンソー教をブチ上げた光景を目撃して、声をかけてきたのは間違いないだろう。他に判断材料がない。
「単刀直入に言います。第七クランでクーデターを起こしたいので、あなたのお力を借りたいのです」
ホントに、単刀直入に行ったな。
自分の【知力】では、エルフ相手に策を弄してもムダ。
それを良くわかっているから、ちゃんと相手を見極めた上で、こんな綱渡りな賭けをしてるんだろうね。
健気な事だけど……それだけ追い詰められてるって事か。
て言うか、第七クラン、ねぇ。
「何があったの」
「はい。
我がクランの女王は“体力の君臨者”と言われる剛の者。
我等オーク族は、種族のステータス特性上、肉体面での強靭さが指導力とされる傾向にありまして……」
だろうね。
能力の上限が見えない地球であれば、なんとなーく“各分野でアタマのイイことをした! ハッタリきいたことした!”ヒトがリーダーにされるんだけど、種族限界が数字で出ちゃってちゃあ、ね?
力はドワーフと猫に劣り、そのくせオツムは絶望的に足りない。
アドバンテージは体力と頑強さとなれば、そこ一番高い奴が偉くなるのも道理。
「それで、我等が女王……“
「な、な、な、なんつった今!?」
こ、こくせい……???
「第七クランの女王が自称しております、二つ名です」
そ、そうか。自己申告の通り名か。
【自動翻訳】を通してコレって、原文はどれだけヒドいんだよ。
漢字病わずらった中学生の黒歴史ノートにだって、ここまでヒドい記述は無いよ? 多分。
ボクの母国語が日本でホントに良かったよ。
漢字の並びで、直感的にわかるからね。
その女王サンドラの【知力】がいかほどのものか……今から考えるだけで胃が重いんですが?
「そうした基準で長に選出された女王なのですが……政治はからきしと言いますか……もはや第七クランは人里と称するのも憚られる野蛮な有り様でして……」
「繁殖用のオス・メスを調達出来なきゃ死刑、とか?」
ボクの言葉に、レヴァンがわかりやすく目を丸くした。
「よくお察しで! 流石はエルダーエルフその人ッ!」
いや、たまたま、その任務で追いたてられてたのを見ただけなんだけどね。
「他種族の拉致を強要というだけでも暴挙なのに、ノルマをこなせなかったら極刑……。
クランの繁栄を担うはずの若者を、ゴミのように殺して、死体を辱しめるんです。
本末転倒としか言いようがない!
しかもタチが悪いのは女王はそれを正義と微塵も疑っていない事なんです。
こんなことをしていたら、クランは本当に滅びてしまう……ならば、いっそ」
なるほど、なるほど。
もういい。
もう聞きたくない。
この世にこんな異物が存在するなんて、我慢ならない。
しかもボクは、これから各ステータスの“君臨者”を喰らわねばならない身だ。
イイよ。
こう言う「真面目に生きている同胞を頭の悪さから無意味にスポイルする」クズなら、躊躇いも起きないよ。
ぶっ殺す。
絶対に、そのクソメスオークをぶっ殺す。
ボクは、満面の笑みでレヴァンと握手した。
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