ブレイブ・ジャスティスの記録01

 俺は、姿見に裸身を映している。

 仕上がった肉体を目視点検して居たのだ。

 

ブレイブ・ジャスティス

【力:100(100) 体力:100(100) 知力:98(100) 反応:100(100) 器用:100(100)】

 

 ようやく、スタートラインに立てた。

 知力の不足分については“使命”をこなすうち、自然と埋まる事だろう。

 98もあれば、目下の所、不便も無い筈だ。

 尚、ブレイブ・ジャスティスと言うのは紛れも無く俺の氏名だ。

 一瞬、目を疑うかも知れないが。

 自身の点検が終わると、次は装備だ。

 H&K MP5短機関銃に始まり、拳銃も狙撃銃もある。

 この世界のエルダーエルフなる人種に概要を教えた所、何らかの方法で情報的に越次元し、製法を入手したらしい。そして、地球のそれを完璧に再現してのけた。

 この事から、この“一菱いちりょう”なる世界は、地球へ情報的にアクセス可能である事がわかる。

 但し、物体的に越次元が可能であるかは不明。

 尤も、いずれにしても俺には関係無い。

 とにかく今は、手にしっくり来る“相棒”達を取り戻せただけで良しとする。

 地球のSATでは狙撃班に居た訳では無いので、狙撃銃の扱いは二流だが……無いよりはあった方が良い筈だ。

「ブレイブよ。使命の時が動き出しました」

 一人の女が入室。

 何の前置きも無く、俺に言った。

 長い赤髪ジンジャーを三つ編みにし、地球で言えばバチカン枢機卿すうきけいのような緋色のローブを身に纏ったエルダーエルフの女・ヴァーミリアと言ったか。

 この大陸の首都ペンタゴン・シティを支配する五種族議会のエルダーエルフ代表……つまり、事実上のトップと見て良いだろう。

「闘技場において、“反応力の君臨者”を喰らった者が居ます」

「俺には関わり無いな」

「その者は、ワーキャットを煽動し“チェーンソー教”なるものを興しました」

「……何?」

 俺はエルダーエルフにもう一度、その単語を言わせた。

 ……俺の聞き間違いでは無かったようだ。

 この世界に“チェーンソー”と言う、が生まれた、だと?

 ある予感に、心臓が跳ね上がる。

 こんなに人間らしい何かを感じたのは何時いつ振りだろうか?

「教祖の名は?」

「宗派を立ち上げたのみで、教団などの組織は設立されなかったようです」

 興すだけ興して、放置して逃げたのか。

「ただ、きっかけとなった預言者を名乗る男が居ました。

 名を、レイ・シマヤ」

 ーー。

 一瞬、息が止まった。

「“使命”の為に手段を選ぶ積もりは無い」

 俺は装備の点検の片手間に、エルダーエルフに言った。

「手近に“それ”が居るなら、この都市の市民も巻き込むぞ」

「それもまた、大地の営み。我等エルダーエルフに止める権利はありません」

 エルダーエルフ。

 俺からすれば、入力の煩雑な3Dプリンタのような存在だ。

 確かに、地球上のどんな天才よりも一回り以上の知能を持つ個体が民間レベルにゴロゴロ居る種族は驚異的かも知れない。

 だが、この生物の“精神性”と言うのは石器時代から殆ど停滞していると、俺は見ている。

 俺が教えた銃器類も、この世界に広まる危険は無いだろう。

 この生物達にとっては無用の長物であるなら、俺に渡した時点で忘れ去ってしまう筈だ。

 だが、俺にとって“エルダーエルフほか五種族のモデルケース”は、この首都で出会った者しか無い。

 油断は、禁物だろう。

 

 夜。

 ターゲットは、ハンターエルフの“君臨者”ニクソン。

 衛兵の射撃大会にて、万年トップの座をほしいままにして居る男だ。

 この首都に居る分には最も分かりやすく、手近な君臨者だった。

 鐘楼のある建物から、奴の弟の手足を狙撃銃で撃ち抜いた。

 倒れた弟を助けに入ったニクソンの胸を、一発で撃ち抜いた。

 奴は前のめりに倒れて動かなくなった。

 自分も散々用いてきた戦術だろうに。

 やられる側になる想定は無かったのか。

 何かが、俺の中に入ってくる。


ブレイブ・ジャスティス

【力:100(100) 体力:100(100) 知力:98(100) 反応:200(100) 器用:100(100)】

 

 使命の一つを、先ずは果たした。

 用の済んだ弟の方も、胸を撃ち抜いて始末した。

 禍根は絶っておくべきだからだ。

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