第16話 異種族のココロがひとつになる時

 なんか、激痛に苦しみつつも、フョードルは親指を立てて見せた。

 何? ボクの戦いを讃えてくれてんの? グッジョブって。

 そりゃ、どうも。

 で、観客席の方はと言うと。

 生かせ! 生かせ! 生かせ! 生かせ!

 予想通りの反応だ。

 でもこれはイイよ。

 エルフもドワーフも皆、必死に身を乗り出して、画一的にボクへ訴えかけてるの。フョードルの助命を。

 あの、鼻持ちならないエルダーエルフ達でさえ、だよ?

 もっとフョードルの試合を見たい。もっと、もっと、これからも! その気持ちが満場一致だ。

 種族の垣根が無くなり、オーディエンスのココロは今、ひとつになっている!

 なんと、完璧な調和なのだろうか。

 おお……!

 ただし、エルシィだけノーリアクション。

 エルシィ空気読め。

 で、まあ。

 どのみち“Die”しか無いんだけどね。

 ボクはチェーンソーを鳴かせ、フョードルの首をはねた。

 だって「観客のコールを無視してはならない」なんてルール、書いてなかったもーん!

 ワー、ワー、うおおおお!

 フョードルの命乞いで揃っていた観客の叫びが、キレイなグラデーションを描いてボクへの怨嗟に変わって行く。

 イイ! 凄くイイ!

 今日、試合に出て……いや、この汚ならしい首都に来てよかったって、はじめて思えたよ!

 ボクは感極まるあまり泣いてしまった。

 よし、フョードルの首級を晒しモノに掲げて、ヒーローインタビューだ。

 よーく聴こえるように、実況者マイク兼審判をしてたエルフを引っ張ってきて。

《見てごらんよ。コレがキミらが狭い世界で有り難がってた“英雄”の、ミジメな末路だよ!》

 ワー、ワー、うおおおお!

 涙声で宣ったボクに、罵詈雑言の雨嵐が降り注ぐ。

 野球とか団体スポーツ観ないからわかんなかったけど、ヒーローインタビュー受けるってこんな感じかぁ。地球ではまず無縁だった、貴重な経験ができたよ。

 エルシィは、両サイドの観客にぶつかられ、もみくちゃにされて慌てている。

 流れに乗れ! そこは周りと一緒にボクを罵るところだろ!

 エルシィ空気読め。

 両脇からやってきた係のヒトに、

「危険ですので、事態がおさまるまで、こちらで待機してください」

 とお気遣いいただいた。

 ああ、ボク、見た目がエルフだもんね。

 首都じゃあ上流階級は大事にされるもんね。

 じゃ、もう少し滅茶苦茶しても許されるね。

 ブーケトスならぬ、フョードルトスだ!

 生首を、観客席に投げ込んでやる。

 ワー、ワー、うぎゃあああ!

 あ、あれ? 観客が思ってたのと違う挙動を取り出した。

 あるモノたちは逃げまどい出口に殺到してドミノ倒し、あるモノたちは、ボクのいる舞台へ飛び降りようとして係のヒトに止められている。

 エルシィは、周りのテンションについていけないようで、オロオロキョロキョロ。

 エルシィ空気読め。

 何でだよ?

 今まで散々見てきたモノだろう?

 何で、自分のとこに飛んで来ただけで、そんな混乱するわけ。

 勝手すぎるんじゃない。

 これさ、負けたのがボクだったら“殺せ”コールだったんでしょ?

 気に入った選手は無様に負けても生きてて欲しくて、どーでもいい選手はフョードルに処刑されたほうが楽しい。

 他人の生殺与奪を決めるとか、何様。

 まあ、現代日本人の感性を押し付けるのもよくないから、そこは突っ込まないけどさ。

 あっ!

 そろそろエリクサーの効果が切れるころか?

 と、焦ったけど。

 阿鼻叫喚の混乱に乗じて、エルシィが観客席から解毒してくれた。

 エルシィ、空気読んだ。

 

 さて。

 フョードルを斬った直後から、チェーンソーを持つ手の感触がヘンだ。

 チェーンソーが、ノコギリ刃で咀嚼そしゃくしたフョードルの内部から何かを吸った、そんな気がした。

 いや、物質的には何も取り込んではいないんだけどね。

 何故か「そうしなきゃいけない」気がして、ボクはチェーンソーに自分の意識を沈めるようなイメージを浮かべた。

《ぁ……ぁぁぁ……》

 何かが、延々うめいている気がする。

 ってか、丸っきりフョードルの声だよこれ。

 耳には聴こえないけど、何て言うの? 脳に直接あいつの声が刻まれる感じ。

《私、私は……どうなって……》

 フョードルが、ボクを見た気がした。

《お前、お前が……私……を……ぁぁぁぁぁ》

 そして、チェーンソーから急浮上してボクを捕まえようとする!

 いや、フョードルの身体は、今、コロッセオの掃除係が片付けてる最中で、チェーンソーの中には無いんだけどさ。

 とにかくボクは、急いでチェーンソーから意識を剥がした。

 捕まったら、何があるかわかったものではない。

 何だろうね、これ?

 魂ってやつ?

 斬った“君臨者”の魂を食べたって言うなら、まあ確かに“邪聖剣”って感じはするよね。

 ボクは……霊魂だとか死後の世界だとか、信じてないんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る