19話:容認

「本当に来るのでしょうか?」

黄昏時のアルク-エプの街、オスタルの借りている空き家で、悪魔を待ち構えるルシャールの乙女の姿があった。乙女たちの中でも己の正義を重んずる者の一人、正義に服従するものミカルナ。そして純粋な悪意を宿す者シーヴァである。

二人はオスタルの指示で、この家に待機することなっていた。オスタル曰く夜の訪れと同時に、リナーシャの手帳から象形文字の悪魔ルジャウッドが現れる、らしい。机の上には一時期ラプームに盗まれた、リナーシャの手帳が置いてある。

「オスタルの言葉を信じる他ありませんわ。確かにあの方は遠回しな言い方や、謎めいた発言が多いですが、私たちには決して嘘を付きませんもの」

ミカルナの言葉にそうですね、とシーヴァは返しタクティカルバトンを構えた。その瞬間、ぞわりと背中を這うような寒気が二人を襲った。

「来ますッ!」

シーヴァが啖呵を切りタクティカルバトンを構えなおすと、卓上のリナーシャの手帳から青い霧と黒々とした触手を6本持つ粘液質な不定形の身体が、風で開かれた手帳から這い出てきた。それはぼとりっと嫌な音をさせて床に落ちた。

「・・・・・・どうやらこちらの行動を読まれていたようですね。貴女方の指揮者はさぞ優秀なのでしょう?」

老若男女年齢関係なく数多の声で、ケタケタと笑いかろうじで人型を形成したルジャウッドは、顔に当たる部分に黄色い眼球を造り出しミカルナとリナーシャを見据えた。


 *


同時刻、かつてラプームとヴィブルの拠点であった路地裏で、神話時代以来の邂逅が果たされていた。

邪神にして夜空と盗賊の王スムマヌス。そしてルシャールの乙女の一人オスタルと、ルシャールの乙女にして神官でありながら神を否定する者リナーシャ。スムマヌス、そしてオスタルとリナーシャは互いに向き合う様に陣取りっていた。

しかし誰一人として武器に手を伸ばさず、呪文を口にすることもなかった。数分に渡る沈黙の後、オスタルが購入した空き家の方から連続して爆発音が響いた。リナーシャは心配そうに音のした方向を見たが、オスタルはスムマヌスから目を離さずに口を開いた。

「こちらは行動で示したわ。次は貴方が示す番じゃなくて夜空と盗賊の王?」

リナーシャはチラリとスムマヌスを見てから、武器を具現化させようとした。しかしオスタルによって制される。

「左様、オスタル殿の言う通り。然れど元よりかの悪魔の命運などどうでも良い。余は身体を欲し、彼奴は余の望むものを献上した。故に用済みだ」

貴方ねッ、と声を荒げそうになりふと冷静になる。今のはルシャールの乙女らしくなかったと。

「それはあの悪魔を滅ぼしてもよいってことかしら」

スムマヌスは無言を返す。オスタルはスムマヌスを睨みつけた後、わかった...と返事をしリナーシャと共に路地裏を後にした。

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