18話:邪神と鱒と・・・

「あっ思い出した!」

アルク=エプの街から数キロ離れたところで、ラプームはハッとした声をあげた。同行者であり良き相棒のヴィブルは、相方の声に驚き肩をビクつかせた。

「何だいきなり大声出しやがって」

ヴィブルが相方に注意する。しかしラプームはそれどころじゃないと言わんばかりに、ブツブツと小言を囁いていた。

「なあヴィブル。君は今からアルク=エプの街に戻るのが、得策だと思うかい?」

突然の問いにヴィブルはルシャールの乙女たちの形相を思い出し、慌てて首を左右に振った。あのナイフがあった時は恐れるに足りないと感じていたが、今は本能的に彼女たちを相手にしてはいけないと直感することができた。

「そうか、そうだろうよ。なら戻るのは諦めよう」

そのまま話を終えそうなラプームを見て、ヴィブルは話の意図がわからないと説明を求めた。

「いや何、敵は象形文字の悪魔ルジャウッドだけじゃないと、彼女らに伝え忘れたと思ってね」

「ハニブ・リエルだったか?今彼女はグレート・オールド・ワン、夜空と盗賊の王スムマヌスに他ならない!」


 *


早朝、誰よりも早く目を覚ましたオスタルは、テーブルに刻み込まれた古き文字を見て微笑を浮かべた。餌に鱒(獲物)が引っ掛かったと。

それからオスタルは上機嫌で朝の散歩に出かけた。オーストリアの作曲家フランツ・シューベルトの『鱒』を口ずさみながら。無論、出かける前にテーブルの文字は消してからだが...


 *


「我らの感情の臨界を超越せし、貴方の作業。そのため貴方を罰する影が現れる」

オスタル含めてルシャールの乙女全員での朝食を終え、ミカルナが全員の食器を洗っている時、オスタルが口にした。

その意味深な文章を聞き、オスタルの向いでコーヒーを飲んでいたリナーシャが口を開く。

「私達は激おこだぞ、だからルシャールの乙女をぶっ殺してやる...意訳するとこんなところか?」

オスタルはリナーシャの意訳にクスクスと笑った。その通り、オスタルが口にしたのは早朝テーブルに刻まれていた古き文字、即ちアクロ語を直訳したものだ。

それを意訳するならリナーシャが言ったような内容になるだろう。

「つまりどういうことです?」

いまだ理解できていないシーヴァを抱きかかえ、膝の上に乗せたオスタル。満更でもない様子のシーヴァにリナーシャが、説明を加える。

「つまり昨晩言っていたオスタルの餌に早くも獲物が引っ掛かったってことだよ」

えっ、と感嘆の表情を浮かべるシーヴァ。そして当然の疑問が生じる。それにしても餌なんていつ撒いたのか?

その疑問にオスタルは一言。

「昨晩ナイフ折ったでしょ?あれがそう。シーヴァちゃんだってタクティカルバトン折られたら怒るでしょ?」

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