17話:訪問 後編

「おおよその筋はわかった。ところでラプームお前に憑いていた悪魔はどうなった?まだお前の中にいるのか?」

ラプームは首を左右に振り、否定する。

「あの悪魔は今頃、君が私を助けた路地裏から動けず困っているだろうよ」

ほお?とヴィブルが興味を示すと、ラプームは周囲を一瞥してから口を開いた。

「実は悪魔がルシャールの乙女の一人を捕えようとしたんだが失敗してね・・・再度私に憑りつこうとしたした時にヴィブル、君が来たんだ」

だから悪魔ルジャウッドは憑依する相手がおらず、あの路地裏で立ち往生するしかない。ラプームはたいそう愉快そうに言った。

「ルジャウッド。象形文字の悪魔は文字が読める人間にしか憑依できない!つまりこの街の商人と私たち二人だけだ。してその中の誰があの不気味な噂の囁かれている路地裏に入るというのだ」

ラプームは神職者であった頃に読んだ文献から悪魔ルジャウッドに関する知識を披露していく。今までの経緯と悪魔の正体をルシャールの乙女に報告し、駆逐してもらえば万事解決なのだ。加えてルジャウッドは動けないと来た。この一件が終わったら、ヴィブルと一緒に街を出よう。そうラプームは決意した。しかし同時に頭の中にモヤモヤとした、何かを忘れているような感覚が残ったままであった。


 *


その後、無事にルシャールの乙女の拠点、オスタルの借りている空き家についたラプームとヴィブルは彼女たちと情報共有をした。とは言え最初から話を聞いてもらえるわけもなく、特にリナーシャとシーヴァからはすごい剣幕で睨まれた。それでも比較的容易に話が進んだのは他でもない、オスタルのおかげだろう。ルシャールの乙女のリーダーである彼女が、ラプームとヴィブルの話を聞くという態度をとっている以上、二人を襲うわけにもいかず黙って聞くほかなかったのだ。一通り話を聞き終えたオスタルは街の人間たちを懐柔したあの人懐っこそうな笑みで一言。

「そうわかったわ。じゃあ出て行って、この街から直ぐに!」

その後、ミカルナからランタンを渡され、ラプームとヴィブルはいそいそとアルク=エプの街を出ていくとなった。もともと故郷でもない街のため、二人も心残りはなく街を離れることができた。一方、ルシャールの乙女のオスタルは、ラプームから受け取ったダマスカス鋼のナイフを蠟燭の火の許で観察していたが、ふと左右の両手でナイフを持つといとも簡単に折ってしまった。

その光景にリナーシャは苦笑し、ミカルナは興味深そうにオスタルを見つめ、幼いシーヴァは唖然としていた。

「ところでリナーシャ2度と手帳は落とさないように」

折ったナイフをテーブルに置き、オスタルはリナーシャを注意すると寝支度を始めた。その様子に驚いたシーヴァはオスタルに声を掛ける。

「オスタルさん。あの二人の証言が本当か確かめる為にも今すぐに動くべきです!もし本当であれば目的も達成できますし...」

「ううん...シーちゃん、彼らはきっと嘘を付いてない。ただ今回の件、あの悪魔を殺すだけじゃ終わらないの。・・・と言っても私の勘だけどね」

それに餌は撒いたから、あとは引っかかるのを待つだけと言って寝てしまった。謎めいたオスタルの回答にルシャールの乙女3人は互いに顔を見合わせるのであった。

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