7話:アルク=エプに集う乙女たち
「それでオスタル、これからどうするの?」
露天商が並ぶ通りから離れ、宿屋が並ぶ通りにきたオスタルとリナーシャ。つい先程アルク=エプに着いたばかりのリナーシャは、オスタルの借りている空き家を共同で使うことにした。オスタルは縛られることが嫌いな節があり、何処かに長期滞在する場合は空き家を丸々一つ借りることが多い。もちろん莫大な金銭を要求されるが、それを涼しい顔で払ってしまうのがオスタルであった。
「取り合えずミカルナが到着するまで待機かな」
「ミカっちが来るのか?そりゃまたオスタルにしては意外な人選だな」
「あーうん、まぁね」
ミカルナは正義感が強すぎるため、そこを煽れば猪突猛進になるタイプだ。オスタルが自身の仕える神を殺す際、護衛である神官たちを殺害する役割を担ったのがミカルナである。オスタルはミカルナの性格を知ったうえで、敢えて根も葉もない神官たちの悪評を囁いた。
ミカルナは神官として着任したての時から堅苦しい自分に対し、明るく優しく接してくれるオスタルを良く思っていた。そのため彼女の発言を疑うことなく信じてしまった。その結果、ミカルナには当時の事件を知る人から、ルシャールの乙女としての名を与えられた。
「ミカルナ。彼女は正義に服従するもの。行き過ぎた正義はもはや暴力と何も変わりない……だっけ?」
「どうだったかなぁ。忘れちゃった」
おいおいと呆れ顔のリナーシャ。ミカルナに"正義に服従するもの"という称号を与えたのはオスタルだった。"信仰ほど熱心な狂気はない"と昔のアラブ人が言っている様に、ミカルナの正義に対する信仰ももはや狂気の域に達している。
「なあオスタル、ミカっちが来るまでチェスでもやらないか?」
うんいいよと答えようとしたオスタルの家の戸口が、コンコンと叩かれる。リナーシャは警戒を顔に表し、家の戸口から見えないところに陣取った。オスタルはリナーシャの警戒心の強さに半ば呆れながら家の戸口、外開きの木製の扉を開いた。
「こんにちはオスタル。久しぶりですわね」
「こんにちはミカルナ。本当に久しぶりね」
流れるような銀髪と琥珀色の瞳が特徴的なミカルナ。そんな彼女もまたキトンの上から白いローブを羽織っていたが、前を開きマントの様に風でたなびかせている。これまで色んな街をミカルナと歩いたことがあるが、そのたび子供たちから彼女のマントは好評だった。そのためか今では魔術でわざわざ風を起こして、マントをたなびかせる癖がついていた。
「ミカルナって本当に……」
頭が残念な子よね、とは口に出さずとも思いはしたオスタルであった。
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