4話:物を盗み、人を攫う 後編

「オラッ木偶の坊!そんな骨みたいな身体で何ができるんだ?」

「いいぞアラン!」

「骨を折ってやれ!」

「盗賊に俺たちの力を見せてやれ」

野次馬たちはアランを応援する。いやただ野次を飛ばしているだけだ。ラプームは状況が不利と判断したのか、チラリと路地裏を確認する。しかしそれを見逃すアランではなかった。

「おいおいどうした?もしかして相棒の大男が助けに来ないかと思ってるのか?それとも退路の確保か?どちらにしろテメェをぶん殴って、砂漠の奥地に置き去りにしてやるよ!」

「えげつねぇなアラン」

「飢えと渇きに悶えて死ぬとか怖ぇー」

野次馬たちからアランの挑発に対する感想が飛んでくる。一方のラプームは冷静に状況を把握していた。元神官であり学者であった彼は肉体こそ恵まれなかったが、頭脳の方は一級品であった。そのため生まれ故郷のローマでは、神官として神職に準じながら学者として宗教の研究に励んでいた。当時のローマでは神官は失業することがなく、年老いて働けなくなっても死ぬまで生活を保障される最高の職であった。しかしラプームは異教の神々を研究していたという理由で、神官の職を追い出されるという異例の処罰を受けることになった。

「馬鹿が、口を開いている暇があったら私を黙らせてみろ」

ふとラプームが口を開いたと思ったら、それはアランを貶す挑発だった。今までラプームが何も言わなかったのは、ビビッていたせいだと思っていたアランは数歩後ずさる。

しかし野次馬たちの応援に励まされ、アランはラプームに向かって走り出す。今までは腕っぷしが強い巨漢のヴィブルが一緒にいたため、盗賊に喧嘩を売るようなことはしなかった。しかし今は細身のラプームが一人。つまり盗賊の一本食わせるチャンスであり、自分の彼女を襲ったため正当的に暴力を振るえる。故にアランは半殺しにする気で腕を振りぬいた。

「砕けろ盗賊がよぉっ!!」

アランの剛腕はラプームの顔面を貫いた。確かに貫いた。が同時にラプームは青い霧へと霧散していった。その青い霧はアランの背後に集まり、再びラプームの姿をとった。そして素早い動きでアランの足を切りつけた。

そして痛みで地面に尻をついたアランの大事なところを思いっきり蹴ると、アランの右足を左手で持ち上げた。そして自分の右手にあるダマスカス鋼のナイフを見て、アランの右足を見た。

「─────っ」

声にならない悲鳴がアランから漏れる。

「ほう?よく耐えたな、アキレス腱を切ってやったのに」

ラプームの言葉にその場の誰もが口を閉じる。ラプームはダマスカス鋼のナイフに付着した血を掃うと、ブロンド髪の女性に歩み寄り油断のない殺人鬼の目で言った。

「一緒に来い」

ブロンド髪の女性は痛みに悶絶するアランを見た。きっと彼は助けに入れないだろう。

「お前が来ないならこのアランとかいう男の左足のアキレス腱も……」

「わかった!わかったわ一緒に行くわ」

よろしいとラプームは言い、ブロンド髪の女性の腕に爪を食い込ませ路地裏に強引に連れて行った。アランを除くその場の誰もが二人が路地裏の影に消えるまで、一歩も動けず声も出せなかった。

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