3話:物を盗み、人を攫う 前編
盗賊による宝石強奪事件から2週間経った日の午前、またしてもヴィブルとラプームは盗みを働いていた。今回狙われたのは青果店。どうやって盗んだのかヴィブルが木箱一杯の果実を掲げ、露天商たちの前を走り去っていく。そしてその後ろを追うのは青果店の店主でも露天商でもなく、細身のラプームだった。
ヴィブルは路地裏の入り口前で後ろを振り向き、露天商の反応を確認してから急ぎ足で路地裏に入っていった。その後ラプームが続くと思われたが、ふと何をか思い出したかの様に足を止めた。そして自分を観察する野次馬たちの方へ目線を向けると、いやらしい笑みを浮かべ舌なめずりをした。
一瞬で野次馬たちの前まで移動すると、きめ細かい肌とたわわに実った胸が特徴的なブロンド髪の女性の腕を引っ張り、路地裏に引きずり込もうとした。
誘拐という盗賊たちの初めて見せる行動に驚くも、野次馬の若者たちは怒りに動かされ罵詈雑言を吐く。ブロンド髪の女性も必死に抵抗するも、体力的な問題だろうか段々路地裏に引きずり込まれている。
その光景を見ていたルシャールの乙女の一人オスタルは、2週間前の宝石商の成れの果てを見たせいで、誰も動けないのだろうと推測した。結局皆、自分が可愛いのだ。だから誰もあのブロンド髪の女性を助けようとしない。オスタルはそう結論付ける。するとそうかしらと背後から声を掛けられる。そしてオスタルに反駁を突き付けた、聞き覚えのある声の持ち主が隣に立つ。
「久しぶりだねリナーシャ」
「そうねオスタル」
ルシャールの乙女の一人リナーシャだった。天真爛漫で童顔のオスタルに対し、リナーシャは露出の多いキトンの上に、半透明のローブで身体を隠していた。それでも彼女の色っぽい肉体美は明らかで、整った顔とサファイア色の瞳がより一層大人の女性としての魅力を引き出していた。
「それでリナーシャ、私の意見に反駁がある様だったけど?」
「うん?あー人間は自分が可愛いから、他人なんてどうでも良いって意見ね。勿論よ、ほら彼が来たわ」
リナーシャが指さす方向を見ると、野次馬を押し開きながらラプームとブロンド髪の女性の前に姿を現した大男がいた。ラプームはその男の体躯に一瞬驚きはしたものの、すぐに強気な態度を示す。一方、ブロンド髪の女性はその男を見るなり、恐怖から歓喜の表情へと変わっていた。
「助けてアラン!!」
言われずとも分かってるわと大声で返し、戦闘態勢をとる大男アラン。ラプームもアランを無視してブロンド髪の女性を路地裏に連れ込むのは不可能と判断し、ヴィブルから借りたダマスカス鋼のナイフを取り出し戦闘態勢をとる。
「彼ね、あのブロンド髪の女性の彼氏らしいの。良いわぁ愛の力って偉大よね」
「はいはい色ボケも程々にね」
彼氏が彼女の危機に掛けつけるシチュエーションに喚起するリナーシャ。それを軽く流すオスタル。無論、彼氏のアランを嗾けたのはリナーシャであることにオスタルは気づいていたが、いちいちそれを指摘する気も起きなかった。
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