2話:黒人の神父からの贈り物

「「スムマヌス、夜空と盗賊の王よ。偉大なるグレート・オールド・ワンよ!」」

薄暗い路地裏にヴィブルとラプームの声が木霊する。盗賊二人が祈りを捧げる石壁には黒いインクで、渦巻く触手と中央に六角形の目がある結印が描かれていた。

この絵は二人が描いたものではなく半年前、偶然出会った黒人が残していったものだった。最初こそヴィブルもラプームもその黒人を警戒していたが、殺人をなんとも思わないと主張し目の前で人を殺してまで見せた。それから二人は黒人───本人曰くナイ神父というらしい───とささやかな宴を開いた。

干し肉と度数の強い葡萄酒で宴を開き、三人は一晩中意気投合した。翌朝、ナイ神父はそろそろ街を去ると言い、ヴィブルにルビーの飾りが付いたダマスカス鋼のナイフを渡した。

ヴィブルはただのナイフだと思っていたが酔いつぶれ、ナイ神父が去った後に起きたラプームが、そのナイフを見るなり興奮気味に近寄ってきた。日に照らしてみたり、振り回してみてはうんうんと頷くラプーム。相棒の突然の奇行に苛立ちを覚えたヴィブルはいい加減にしろ、とラプームの頭を一発殴った。やっと興奮から覚めてラプームは、殴られたところを擦りながら、このナイフが如何に価値あるものか、歴史的、実用性に重点を置いて語った。

ラプームの説明を聞き終わり、ヴィブルはあの神父は何者だ?と、訝しげに彼が去っていった方向を睨んだ。一方ヴィブルの懸念など知らず、ラプームは能天気なことを言い出した。

「ところでヴィブル。お前さんにプレゼントがあるのに、俺には無いってあの神父どういう神経してやがる。これだから神職の連中は・・・」

先ほどまで酔いつぶれていた者とは思えない横暴さで神父を貶すラプーム。しかしふと彼の視界に奇妙な印象が映りこむ。それこそスムマヌス、夜空と盗賊の王にしてグレート・オールド・ワン。その神の印象であった。

元々生真面目な神官であり、学者であったラプームはその印象を観察し、ローマ神話におけるスムマヌスの印象に似ていることに気づいた。しかし要所要所で異なるところがあり、一部にあの忌まわしき哺乳類の天敵であるヘビ人間の言語、即ちアクロ語が使われていることを知った。

ラプームもまたヴィブル同様に、ナイ神父が去っていったであろう方角を睨んだ。もしかしたら自分たちはとんでもない存在と、宴を開いていたのかもしれない。"魔宴"。そんな単語が頭をよぎり、ラプームは激しく頭を左右に振った。

彼の正体を探ろうなど自殺行為以外の何物でもない……そう自分に言い聞かせ、そっと胸の奥にナイ神父の正体を暴こうとする好奇心をしまい込んだ。一方、ヴィブルも生まれ持った先天性の勘で、ナイ神父の正体を暴くことは危険を招くと察し、暴きたいという好奇心を胸にしまい込んでいた。

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