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「え。魔核狩りの中に、玲芽くんと一緒に住んでた女の人がいるの?」
昨晩の事。勤務時間を終え戦闘訓練に一区切り打った玲芽と甘音は、運動後のストレッチをしながら話していた。
「恐らく、です。確証はありませんが、共通点があります」
甘音の柔軟に曲がる肢体に感心しつつ、玲芽は考察を並べ立てる。
学校で小崎との揉め合いがあって以降、玲芽は持て余した時間で濃密な戦闘訓練と対魔核狩りの作戦立案を並行していた。
「背丈も身体の細さもかなり一致していますし、何となく俺を憎む様な感情が見えました。こう、言葉の節々から」
「なるほどね。でも背丈はともかく、体型なんてすぐ変わっちゃうんじゃない?」
甘音は前屈して床にぺたりと腹をくっつけながら、首だけ捻って玲芽の方に視線を向ける。
(にしても柔軟だな。甘音さん関節とかあるのかな……)
などと考えながらも、甘音の反論に「それはまあ、そうですけど」と同意気味の曖昧な返答をする。
「何より、笑い方がそっくりなんです。クフフって笑い方。ちょっと恥ずかしそうな、遠慮気味な笑い方なんですけど。多分染みついた癖みたいなもので、簡単には取れないと思うんです」
玲芽はギリギリ手が床につく程度の前屈をする。甘音に比べると、まだまだ硬く器用な動きが難しい身体だ。
「……あーね。そういう笑い方をする人はまあいるっちゃいるけど、可能性としては充分有り得る範囲かな」
甘音は前屈を辞め、仰向けに寝転んで片膝を腹の辺りで抱える。足捌きに重きを置く甘音の剣術は、その辺りの筋肉は特に管理が重要らしい。
「でもさ。玲芽くんその女の人、好きでしょ?」
玲芽と反対方向に顔を向けたまま、彼の核心に触れる。
「……えぇ。まあ」
甘音とワンテンポ遅れていた玲芽は、甘音と同じ体勢になって彼女の背中を見つめながら肯定する。玲芽が今重点的に鍛えている技も、脚部には相当の負担がかかっている。甘音同様ストレッチには気をかけなければならない。
「魔核狩りを釣り出す事も、その護衛に隠密行動ができる私一人がつく事も──何より私を選んだ事も良いと思うけど。玲芽くんはその女の人が魔核狩りだったとして、戦えるの?」
言い終えて、甘音が伸ばす脚を入れ替える。そのため自然と二人は目が合う形になる。
玲芽は暫し黙して考え、結論を出す。
「多少の加減は産まれてしまう可能性はありますが、戦います。それに、今はあの人よりも、甘音さんの方が好きですから」
玲芽は甘音の黒々とした瞳を見つめ、まっすぐに自分の出した答を甘音に告げる。
「!?」
その酷く直球な物言いに、甘音は大きな目を見開き口元で嬉しさと恥ずかしさの入り混じった笑みを形取る。
「あは、あはは。しょーがないなー玲芽くんはー。そんなに私を愛してるんなら、きっとだいじょーぶかな──「それに。結璃も楠瀬も、あとついでに勇武も。まあ好きですからね」
玲芽は先程の甘音と同様に伸ばす脚を入れ替え、甘音に背を向けつつそうつけ足す。
「…………その。玲芽くんの好きっていうのは、親愛とか友情とかそういう奴でオッケー?」
「はい。そうです……よ?」
脚を充分に伸ばした玲芽は仰向けになり、上体を起こそうとする。だが仰向けになった玲芽に跨った甘音が、それを許さなかった。
「あの……甘音さん?」
至近距離で見つめ合う二人の間に、甘々しい雰囲気はない。何故なら甘音の表情が、怒りと悲しみに満ちた涙目だったからだ。赤く染まった頬を膨らませた甘音は、重たい沈黙を軽い体重ごと玲芽に押しつける。
「ふんッ!」
そして暫しの沈黙を置いた後、力いっぱい玲芽の頬を摘み、ぐりぐりと引っ張る。
「いはい、いはいれふあわねひゃん!!」
甘音に対してだけは家族愛とは少し違った感情を、確かに玲芽は抱いている。だがそれを甘音に告げる事はできない。例え頬が引きちぎられようとも。
「気合をいれてあげるよぉぉぉぉぉ!! こうやってぇぇぇぇぇ!! その可愛い顔に丁寧にぃぃぃぃぃぃ!! このクソ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
怒りと悲しみと愛が複合されたその叫びに、なんだなんだと勇武や結璃が集まってくる。
だが放っておいた方が楽しそうだと放置された恨みは、暫く覚えておこうと思う玲芽であった。
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