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何とか毎日を過ごしながら小学校を卒業した私は、少し遠くの中学校に通う事にしたの。電車を使って何駅かくらいの場所だけどね。とにかく家にいる時間を少なくしたかったんだ。
あんまり家にいる時間が長いと、楽しかった頃の事を思い出して。その時はそれでいいんだけど、いざ独りだって自覚すると、忘れていた寂しさを思い出しちゃうから。
いわゆる女子校ってやつでね、女の子しか通わないとこ。
一年生の秋くらいかな。同じ学校の制服を着ていたけど、顔も知らない人達に呼び止められてね。
──二年生の先輩だった。パッと見た時は髪の色も明るくて怖かったけど、はじめて話す私にも明るく接してくれて、嬉しかったな。
あ、私当時は今よりずっとくらぁ〜い顔をしててね。友達も中々できなかったの。中学で心機一転! なーんて思ってたんだけど、うじうじと昔の事を引っ張っちゃってて。
それで一緒に晩御飯に行って、その日はそれで解散した。また遊ぼうね、なんて言われちゃって。その日は帰っても全然寂しくなかったよ。だって、友達ができたんだもん。
それから毎日の様に、先輩達と遊んだよ。ボーリングとかカラオケとか、学生らしい遊び。ちょくちょく財布を忘れる人達だったから、私が全額出したりもしてたな。
一ヶ月くらいしてからかな。三人とも家族との折り合いが悪いからって、私の家に泊まりに来たの。
家にいる時間が短くなってたから、散らかってないかーとかの心配もなくて、私ははじめて友達を家に泊めるのが楽しみで仕方なかった。
順番にお風呂を使ってもらって、最後に私が入るってなった時にね。脱衣所に先輩達が入って来て、服を脱ぎかけてた私の写真や動画を撮り始めたの。
私が抵抗して何でそんな事するのか訊いたら、なんて言ったと思う?
──そうだね、判んないよね。錐川くんはそういう子だもん。ああいや、馬鹿にしてるんじゃなくて。そんな錐川くんだから──ううん。とにかく! 馬鹿にする意図はございませんので!
……こほん。話を戻すね?
先輩達はその、大人の男性とデートみたいな事をして、その謝礼にお金を貰ったりしてて。パパ活? っていうらしいよ。とにかくそういう事をしてお金を稼ぐ人達でね。
その『パパ』の一人が、電車で私の事を見かけて気に入ったらしくって……。でも手を出すのはマズいからって、下着姿の写真や動画を撮るよう先輩達に頼んだみたいなんだ……。
それで、友達になろうって、私の警戒を解いて……私もいけないんだよ。一人暮らししてる事とか、お金はお父さんが送ってくれる事とか、話しちゃってたから、それで財布を忘れたフリをして、お金を出させてたりしてたんだって……。
──え、震えてる? ごめんね、気を遣わせちゃって。でももういいの。終わった話だから。無理しなくていい? してないからいいの!
それで、私が一人暮らしだから、ここにその『パパ』を呼べば話が早い、なんて言い出して。私の事を抑えつけて生徒手帳の写真まで撮ったりして、私は家族の思い出まで、嫌な記憶で塗り潰されちゃうのかな、なんて考えてた。
でも、そこに来たのは『パパ』の男の人だけじゃなくて、今私達と同じクラスのあっちゃんも一緒だった。あっちゃんは当時も私と同じクラスで、私と先輩達を偶然見かけたらしくて、観察してたらしいの。見ず知らずだったあっちゃんに心配されるくらい、よっぽど私は警戒心がなかったみたい。
その『パパ』と先輩達と一緒にあっちゃんが外に出て、暫くして呼ばれて玄関に出たの。そしたらね、先輩達が必死に謝ってくるの。
写真も動画も消した、バックアップも取ってない、本当だから許してーー! ってね。その必死さが怖いくらい。
それからは、もう先輩達も関わってこなくなったし、何も怖い事はなくなったんだ。あっちゃんは監視って名目で私と一緒にいてくれて、自然と友達って呼べる関係にもなったよ。時々私がご飯を作ったり、泊まりに来たりもしてるよ。
でも、その事件があって以来なんだ。私がその……お胸を小さく見せるようにしてるの。その時には周りから少し浮くくらいには、お肉がついちゃってたから、目立たないように、変な男の人の目に止まらないようにって。
高校受験の時期になって、私はもう電車に乗って学校に行くのも、私立の学校に通うのも嫌になっちゃったから。それで綾先南に行くって言ったら、あっちゃんも一緒に──って。元々高校に行くつもりはなかったらしいから、どこに行こうと一緒だって言ってくれた。
とまあ。色々あったけど、私はそれなりにやってるよーって話だよ……って、錐川くん!?
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