深層
次の日も。その次の日も。女の子はボクのところにやって来て、いっしょにごはんを食べた。がっこうにかよっていた女の子は、夕方に来たりもしていた。
冬の日々はいたいくらいにさむかったけれど、いたいのにはなれていたし、女の子からもらったマフラーがあったから、平気だった。
どれだけ夜が怖くても、あの子のわらったかおが見たいから、がまんできた。
──でもそんな日々は、三日でおわってしまった。
『あ、ほんとだ! いるよ!』
ききなれない声に、うとうとしていたボクは目をさました。
目の前には、いつのまにか四人の子どもがいた。ボクのことを囲んで、いやなえがおをうかべている。
『お前マガツメってやつだろ? かみ白いとかキメェ!』
『見てよ、こっちの目は赤いのに、こっちは黒いよ! こっわ!!』
『おれお父さんからきいたけど、マガツメって人みたいなカッコのくせに人じゃないらしいぜ!』
『そうそう、虫みたいなもんだってママが言ってた!』
口々にボクを否定することばを並べて、笑い声を上げる。
『なあに……きみたち』
ボクは男の子たちをにらむ。
『うっざ、マガツメのくせににらんでくるじゃん』
『なまいきだなあ! おら!』
男の子の一人がボクに石を投げてくる。ほっぺに当たったしょうげきで、口の中を切る。
『うわあ、血だ!』
『いたそ〜』
ことばに反して、血が出たのをよろこんでいるみたいだった。
次々に石が投げられて、ボクの身体の至るところに当たる。逃げようともしたけれど、あしはうごかない。
──いたい。こわい。
どうしてみんな、ボクをきずつけたがるんだろう。
どうしてみんな、わらってこんなことができるんだろう。
──あの女の子は、いっしょにごはんをたべるだけで、あんなに幸せそうに笑ってくれるのに。
『やめ……やめてよ……』
『やめてほしかったら、使ってみろよ。まじゅつってやつ!』
『ばか、そんなの使えるわけないじゃん! ウソに決まってるだろ!』
『ふーん、じゃあただのキモい奴なんだね。ここからきえちゃえよ!!』
『そうだそうだ! ボクらのまちからきえ去れ!!』
きえろきえろとボクに言いつづけ、石を投げる男の子たち。決して自分の手では殴らず、とおくからボクをきずつける。
いたいのは、平気だった。たくさん血が出るのはこわかったけれど、いたいのは前からずっとつづいていたから、耐えられた。
でも、そんなことをするりゆうが、わからない。何で人をきずつけることで、そんなに笑えるんだろう。
そんな男の子たちがこわくて仕方なかった。わからないのは、とてもこわいことだ。
『何やってるの?』
とつぜん、女の子の声がきこえてくる。
あの子の声じゃない。別の子がやって来たんだ。
『女子にはかんけいないだろ』
『あるよ。見ちゃったからね』
黒いかみをむすんだ、あの子よりも背のたかい女の子だった。
へいぜんとしたたいどで女の子は言う。四人の男の子たちがにらむのも平気みたいだった。
『なるほど、みんなしてその子に石を投げてたってわけね……』
『で? で? 何か文句ある?』
『おれたちは、こんな奴がここにいるのはまちのためにならないと思ったからやってるんだよ』
男の子たちの言い分をきいた女の子は、口をとんがらせて『ふーん……』とつぶやく。
そして一つ大きくいきを吐いて、言った。
『だっっっっさ』
『はぁ!?』
黒いかみの女の子のことばに、男の子たちが口々にふまんをもらす。おこりんぼうの一人が、女の子に石を投げる。
『ほいっと』
女の子が前からとんできた石をよけて、石を投げた男の子のうでをつかみ、そのまま後ろへ投げた。
『よわ』
『だまれ!』
おこった男の子たちが、こんどは二人でとびかかる。
女の子は左右から近付いてくる男の子二人を、りょうてでおなかをパンチして止める。
『よわ』
たおれた男の子たちに、さっきの子とまったく同じことばを浴びせる。
『で、そっちのはどうするの?』
のこった一人に、そうたずねる女の子。とてもこわいけど、むねがスッとするきもちになった。
『うっざ! うっざ! 何しゃしゃり出てんだよ!』
『はいはい。みんないたいだけで血も出てないから、とっととかえってよ』
女の子に負けた男の子たちが、負けおしみに文句を言いながらどこかへときえていく。
『で、そこのキミ……ってうおおお!? 何か色々折れてるよ!!?』
どこかで見たことのあるような反応をして、ボクの全身のケガにおどろく女の子。
『だ、だいじょうぶだよ。いたいのはへーき。こわいのも、もうなくなったから』
『ダメだよ。ちゃんと治さなきゃ。ほら、いいとこつれてってあげるから』
女の子がさしのべてくれた手を、ボクはとるわけにはいかない。
びょういんは行けないし、この人のつよさがボクに向かうかも知れないし。それに──あの女の子が、またボクにごはんを作って来てくれるから。
『ボ、ボクはやくそくがあるから、行けな──』
言おうとしたけれど、女の子が『うるさい!』とひときわ大きな声を上げて、ことばをさえぎった。
そこからのきおくは、ない。
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