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「と、まあ……。取り敢えず図書室に戻るか」
「あれ? 荷物ほっぽり出してここから出るのかと思ったけど……」
玲芽の提案に未梨がやんわりと反論する。
「いや、今日体育あっただろ。体操着は?」
そこまで言って、未梨は玲芽の意図に気付く。ハッとして「持って来てる。着替えなくていいって言われたけど」と玲芽が訊いていない情報を加えて答える。
「なら、そっちに戻ろう。俺は斬り込むより防衛の方が得意だし、それに多分ここにいる魔術士は俺一人だけじゃない」
図書室への短い道程の中で魔獣に出会う事はなかった。玲芽は念のため室内に魔獣がいないか確かめた後、未梨の着替えを待つため一人外に出る。守護対象と言えど、流石に着替え中に空間を共有するのは憚られる。
同僚である甘音や勇武に連絡すべきかと思い立ち、玲芽はスマートフォンを取り出す。丁度勇武からの着信が入ってきたところだった。
「勇武、今どこだ?」
『やっと繋がった! 今北校舎の一階。結構魔獣がいるから手短に……な!』
勇武は玲芽よりもずっと戦闘経験が多い手練れの魔術士だ。今も通話しながら魔獣を倒しているのだろう。
「そうか。こっちは図書室だ。三階にある」
『ん、同じ校舎か。そっちは動けそうか?』
「現状魔獣は見当たらないが、こっちは楠瀬と一緒にいる」
通話越しに勇武の驚愕が確認できた。図書室内の状況から鑑みて、魔術を修めていない者は全て外に出ているのだろう。
『ん、いや今は今の事だ。なら俺が行くまでそこにいた方がいいよな』
「ああ。危険は冒せない」
『んじゃその方こ──『図書室ね、おっけーい』
そこで突如、二人のものでない声が通話を阻む。そのまま通話は途切れる。
「今のは……」
先程通話に割り込んできた声には覚えがあった。気の抜けるようなふわっとした、力のない高い女声。
(さっき校内放送を介して術をかけた女の声だ……。スマートフォンの通信にも介入できるのか……? 雷電属性の魔術だろうか……かなりの手練れか、こういう術に特化して鍛えた術士か)
いずれにせよ自分よりもキャリアのある敵だ、と確定している事だけを頭に入れた玲芽。いつでも戦闘に入れるよう、両手に魔力を溜める。
だが玲芽の警戒は、あっさりと掻い潜られ敵の侵入を許してしまう。
「こんにちは、錐川玲芽くん」
「──ッッ!!」
左の耳元で囁かれたその言葉に、玲芽は咄嗟に右へと跳ぶ。着地して即座に魔術を発動し、自分と囁き声の主の間に氷でできた壁を創造する。
「クフ……可愛らしい反応をどうも。じゃ、死んでもらうわね?」
そう言ったのは甘音よりも更に細身の、まるで骨と皮以外を削ぎ落としたかの様な体躯の女性。長い前髪で顔の殆どを隠しており、顔立ちの詳細は判らない。
「…………」
玲芽は無言で構え、更に魔術を行使する準備をする。
「無口さんなのね。私は
言葉を終え、篠崎志乃と名乗った女が前のめりに走り出す。
玲芽は両手に短刀を創造し、戦闘行動に突入した。
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