堀内里保の場合
「私は、何で今彼のためにこんな苦労をしているのかわからないのよ。もう二年前から彼を恨んでるわ」
静かに坂崎さんの話を聞いていた堀内さんが、俯いたままで独り言みたいにポツリ、ポツリと話し出す。
「不倫の末に結ばれたんですもの。そのツケはすぐに来たわ。彼の奥さんがね、会社にバラしたのよ。部下である私と不倫した挙句に妻子を捨てた修二さんは、解雇よね。勿論、私も。だから、なけなしの貯金をかき集めて、食堂を営んだの。その内の9万は彼が奥さんの元に残して来た三人のお子さんの養育費に、4万は慰謝料の分割よ。貯金だけで店を開けたわけじゃないから月々10万円のローンもあるし、生活費やお店の資金だって」
よく見たら彼女のサマーセーターは色褪せて毛玉だらけだったけれど、私のクローゼットに入っているものと同じようだった。
堀内さんは自分のものも買うこともできずに、ただ必死に自分たちの犯した過ちのために働いているのだ。
しかも――。
「因果応報よ、奥さんから彼を奪ったのは私。今度は私があの頃の奥さんの立場になってるの」
修二さんは確かによくモテていた。
彼は今度は食堂の常連客と不倫をしているようなのだ、と泣き崩れた堀内さん。
「悔しい、本当に悔しい。でも仕方ない」
彼女の嗚咽に坂崎さんもまた新しい涙を流す。
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