第212話 奢り
「自分に自信を持ちなさい」。
そんな風に言われた言葉が、呪いのように頭にこびり付いている。
自己評価は高い方が良いと言われて、それを頭で理解出来ていたとしても、それが簡単に出来る訳では無い。
元々人と関わることが苦手なのだ。
相手から自分がどう思われているのかということが、常に気になって仕方が無い。
そんなもんだから、「自分に自信を持ちなさい」と言われたところで、「分かった!」と素直に頷けるはずもない。
それでも世の中はそれを認めてくれるほど優しくはないらしい。
ネガティヴな意見や主張は相手に取っての雑音にしかならず、「タスケテ」という言葉は一蹴され無残に散っていく。
もしかしたら相手自身も自分に余裕が無い状態で、必死に虚勢を張っているだけなのかもしれないが、そんなことは私には分からない。
だから強くなるしかなかった。自分自身を守るために。
意識を変えるということは、言葉にするととても簡単に聞こえてしまう。
だが、実際はと言うと、今まで積み重ねてきた価値感や考えを一度壊さなければ変わることが出来ない。
それに掛かるエネルギーは思ったよりも大きく、少し頑張っただけで心は簡単に疲弊してしまう。
ただ、それをすることにより確かにメリットを感じることは多いのだろう。
我慢すべきところでぐっと堪え自分が感じている事を押さえつけてでも、出来るだけ肯定的に物事を捉えるように意識していると、段々とそういう風に自分が変わっていくような気がして不思議な感覚に陥る。
そうやって自己改善をつづけていったことで少しずつ、私は自分の事を好きになることが出来るようになってきた。
自分に自信が付いてくると行動は随分と大胆になるらしい。
今までで気無かったこと、行けなかった場所、付き合うことが出来なかった人など、私を取り巻く環境が目まぐるしく変わっていくのが目に見えて分かる。
そこで見え始めたのは気持ちの奢り。
私は周りから求められている。
それは私にとって大きな変化で、此処に私の居場所があるということが何よりも嬉しく、私の心はどんどんと高揚していく。
それが例え砂で出来た脆いお城だとしても、この時の私は気付かなかったのだ。
それほど私はこの状況に溺れ、盲目になってしまっていたのだろう。
私が間違っていたと言うことに気が付いたのは、突然周りから人がいなくなってしまったことが切っ掛けだった。
知らず知らずのうちに傲慢になった私の性格に、周りが疲弊し距離を置き始めていたことに、何故私は気が付けなかったのだろう。
何を言っても肯定される。
何を言ってもチヤホヤして貰える。
だからこそ自分の都合の良い様に相手が向ける好意を受け取ってしまっていたのかも知れない。
だが、そんな物は本当に、本音を隠したただのまやかし。
私が見せる奢りは、相手が必ず受け入れてくれる肯定とは限らない。
そうやって築き上げた砂の城は、少しの刺激であっという間に崩れ去ってしまう。
結局の所、私に残った物は必死に張った虚勢でつくる張りぼての見てくれと、本質が何も変わらない卑屈な中身だけ。
どれだけ変わろうと足掻いたところで、それを見失い暴走し始めると最終的には、己の本質だけしか残らないのだろう。
自分を肯定することが心地良いと感じていた自分はもう何処にも居らず、何もかもを否定して殻に閉じこもる自分だけが手元に残ったことに感じたのは絶望で。今はもう、何も考えたくない。
私の中の本質は結局、何一つ変わる事の無いネガティヴ思考。
私は本当に必要とされている存在?
その答えは、誰もくれない問題なのかも知れない……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます