第55話 掃除
掃除が苦手な子って結構多いじゃない?
うちの子もさぁ、掃除がとっても苦手なのよね。
ううん。掃除だけじゃなくて、何て言うの? お片付け自体が苦手っていうのかしら?
私としては当然、毎日綺麗の部屋で生活がしたいじゃない?
でもね。子供達はそんなこと、全然気にならないみたい。好き放題に散らかしちゃって、後片付けは一切無視。何度も何度も「掃除しなさい」ってお願いしても、これっぽっちも聞いてくれないの。酷いでしょう?
だからね、私もあの手、この手で掃除をして貰おうと努力していたのよ。
でも駄目ね。あの子達、都合の悪いことは全部シャットアウト。私に片付けて貰うことをずっと待ってるの。
だからね。頭に来てぜーんぶ捨てちゃった。
だって、何度も「片付けて」って忠告はしたのよ? それを聞いてくれなかったのはあの子達。私の言う事を聞いてくれなかったから仕方が無いわよね。だから全部ゴミとして片付けちゃった。
そしたらお家がとっても綺麗になったの。必要なものだけそこに在るシンプルな生活。
何て素敵なんでしょう! もう、本当に素晴らしいわよね。とても清清しくて心地良かったわ。
でも、何ででしょうね?
あの子達や夫はそれを快く思わなかったみたい。
「何で捨てたんだ!!」
って、私の事を責めるの。綺麗になった部屋を見て、何一つ喜んでくれたりはしなかったわ。
そんなことよりも、お前は酷い! 最低だ! って、一方的に避難してくるのよ。
そんな事言っても仕方無いじゃない。だって、私はちゃんと言ったわよ?
「片付けなさい」
って。
その忠告を無視したのは向こう側なのに、何でこんなに責められないといけないのかしらね。嫌になっちゃう。
でもね。それでも私はめげなかったわ。
だって、そこで見捨てちゃったら意味が無いじゃない。私まで掃除を諦めてしまったら、何もかもが台無しになっちゃう。それに、私はまだ納得はしていないわ。汚れきった部屋で、毎日の生活を続けるのが良い事だとはこれっぽっちも思って居ないもの。
ええ。そうね。
貴方もそう思うわよね?
よかったぁ……。その言葉を聞けただけで、私の努力は報われたって安心出来るわ。
正直な所、少しだけ落ち込んでいたの。
私が良かれと思ってやっていることは、みんなにとって迷惑なのかなって思ってしまって。
だって、家の中で私だけ、いつもみんなから責められるのよ。やることなすこと「そうじゃない」って、いつも文句を言われるの。
私はいつだって正しいのに、まるで私だけが間違っているように言われると、本当に私が正しかったのかが分からなくなっちゃって。
だからね。自信がなくなりかけてたのよ。
ごめんなさいね。突然呼び出しちゃったりして。
今日ね、いきなり貴方に連絡を取ったのは、そんな胸の苦しみを少しでも吐き出してしまいたかったから。多分、私いっぱいいっぱいだったのね。いつの間にか心に余裕、無くなっちゃってたみたい。ずっと「お母さん、怖い、怖い」って泣かれてたから、もしかしなくてもそうなんだろうね。
だから一度、このもやもやをリセットしておきたかったのよ。
勿論、問題なんて何も解決してないんだとは思うわ。
それでも、こうやって誰かに聞いてもらえたからこそ、頭の中がスッキリして冷静に物事を判断しやすくなるって言うのは本当みたいね。
私、今、とてもすがすがしい気分なの。
本当は少しだけ、「貴女の方が間違ってるわ!」って言われてしまうかもって怯えて居たわ。でも、貴方はそんな風に私の事を責めたりしなかった。反対に、「貴方は間違ってないわ。大丈夫よ」って言ってもらえたのがとても嬉しくて仕方が無いの。
だから今度こそ自信を持って言える。
「ちゃんと掃除して頂戴!」
って。
始めは忠告。次は警告。三回目は実行。そう、仏の顔は三度まで。
それでも散らかすようだったら、その時は再び実力行使。
散らかしたままのものはぜーんぶゴミだと判断して、容赦無く捨てていくことにしちゃう。
そうじゃないと、全然家の中が片付かないんだもの、仕方無いわよね?
でもね……それでも散らかすことを辞めないようだったら、その時は最終手段。
え?
うふふ。嫌だわ。何の事かしら?
いいえ。そんなことは無いわ。それは考え過ぎよ。
幾らなんだって、私はそこまで酷い人間じゃない。そんな度胸なんて無いわよ。
精々離婚するくらいかしらね?
それでスッキリできるのなら、それくらい安いものでしょう?
ええ。本当に離婚出来るのなら、この手を汚さなくて済むんだもの。
離婚出来ずに汚れた部屋を片付けるくらいなら、そうならないように動かなくちゃ……。
じゃなきゃ私、汚れて汚い人間になっちゃうじゃない。
そんなの嫌よ。望んでないわ。
ふぅ。あっ! そろそろ家に帰らなくちゃ!
子供達が塾から帰ってくるわ。夕飯の支度をしておかないと、後の事が面倒臭くなっちゃうし。
今日は有り難うね。聞いてもらえて助かった!
じゃあ、また今度。
何か合ったときは相談するかも知れないわ。その時はまた、ヨロシク頼むわね。
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