第27話 お揃い
私たちは常に一緒。着ている服や使っている物、好きになる相手の好みまで何もかも似通っていてお揃いで。それがいつも当たり前だったから、その事に疑問を覚える事なんて事は一度も無い。偶に離れる事はあったとしても、気が付けば必ず隣に居るくらいの近い距離。それはまるで空気のような存在である。
だから常に使う物は、同じ物が二つずつ。セットのようにして存在していた。
色を分けた方が分かりやすいよと言われたとしても、それ自体が嫌だと感じてしまうため、必ず同じ色、同じ柄で合わせるようにしている。模様の一つでも異なるようなら、それ自体を買わないというように徹底的に。
買うときも一緒、捨てるときも一緒。常に持っている物がお揃いになるようにしている様子は、病気のようだと周りは口にするが、そんなことは放って置いて欲しい。
私たちはこれで良い。そう互いに納得しているのだ。他人が口を挟めるような問題でもないだろう。
それでも成長していくにつれ。少しずつ『ズレ』というものは出てくるらしい。
どちらが先なのかもう覚えては居ない。気が付いたら、その溝は大分大きく開いてしまっていたようだった。
その溝が修復出来ない程広がってしまった原因はきっと、一人の男性の存在が大きいと思う。
今まで常に二つずつだったものが、分けられない唯一の存在に出会ってしまったのだ。
当然、諦めるかどうか、随分と悩んだし話あいもした。それでも、互いに譲れないと判断してしまうほど、その存在は魅力的に私たちの目に映っていた。
一度入ってしまった罅は簡単には直せないものらしい。
あれほど一緒に居たはずの存在が、今はとても煩わしく感じてしまう。
選ばれたのは私ではなくもう片方。それが堪らなく羨ましくて、そしてなにより悔しかった。
それでも私たちは未だにお揃いの物を使っている。
色も形も、柄さえも一緒。サイズにしたってどちがらどちらの物なのか分からない程精密に似通っていて。
だからついつい、こう思ってしまう。
あのこと私は同じものなのに、どうしてあの子が選ばれたんだろう。
と。
だからといって、私はあの子から彼を取り上げるつもりは無かった。
何故なら、勇気が無かったからだ。
何から何まで似通っているといっても、やっぱり私たちは別個体。少しずつどこかが異なっているのは仕方無い。
活動的なあのこと、引っ込み思案の私。
どんなに彼の存在が羨ましいと感じていても、私の事を見てと声を上げる勇気がどうしても持てなかった。
三という数字になってしまうと、いつかは二つに分かれてしまう。
選ばれるのは彼で、捨てられるのはきっと私。
彼があの子を選んだ時点で、その未来はきっと決まってしまっているのだろう。
とても、寂しい。
そう感じても、いつかは訪れる別れに覚悟を決めておかなければならない。
そうじゃないと、笑顔で「さようなら」を言う事が難しくなってしまうから。
そう、思っていたのに……。
「君は随分と忙しい人……なんだね」
彼が言った言葉が分からず彼女は首を傾げる。
「何を言っているの?」
「……気付いて……無いのか……?」
彼の顔に浮かぶのは怯えの色。今感じている思いをどう言葉にすれば良いのか分からず、視線だけが部屋の中を彷徨っている。
「……気付いて無いなら……そうか……」
実に居心地が悪い。そう言いたげに顔を逸らした後で、彼は彼女に向かってこう告げた。
「悪いんだけど、もう付き合っていられない。俺たち、別れよう」
「え?」
別れを切り出されたのは唐突。彼女の返事を聞くことなく彼は部屋を出て行ってしまう。
「……どういう……事……?」
あの子は振られてしまったみたい。
彼はあの子のどこが気に入らなかったんだろう? 私にはよくわからない。
でも、少しだけ清清しい気分にはなれた。
だって、あの子は私の元に帰って来てくれたから。
あの子と私は常に一緒。着ている服や使っている物、好きになる相手の好みまで何もかも似通っていてお揃いで。それがいつも当たり前だったから、その事に疑問を覚える事なんて事は一度も無い。
それはまるで空気のような存在で、切っては切り離せないほど密接な関係なのだ。
だってほら。
鏡に映っているじゃない。
もう一人の私が、目の前に。
ね。分かったでしょう?
だから、ずっと、一緒に居ようね……。
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