第59話

それからすぐに転院の日がやって来た。


てんくんのお母さんとお父さんがやって来て少ない荷物をまとめている。

あっけないくらいすぐに済む。


「さやちゃん、いろいろありがとう」

そう言って、てんくんのお母さんはあたしの肩を片手で抱いた。

「聞いたよ。天音に会いに行ってくれるんだってね」

お父さんもあたしの頭を撫でて言う。

「うん、きっと行けると思う!」

そう言うあたしの帯に揺れるストラップを見て、お母さんは笑った。

「それ! 私がニス塗りしたのよ」

「鎖を付けたのは僕だよ!」

「わあ、じゃあ3人の合作だったんだね! ありがとう!」


可愛いストラップは、あたしの帯で小さく揺れた。

…うん! どこに飛ばされても大丈夫! 会いに行ける!


二人とも、あたしが病院に居ついた座敷童子だと思っている。

でもあたし自身、どこに行くか分からないから、そこは黙っている。

こんなにお礼されるほどのことをしたとも思えないけど、単純に嬉しいし有り難い。

『粘菌狂想曲』という特別な曲がストラップに思い入れを深くしている。


あたしは来てくれた『さやちゃん同盟』の何人かとてんくんを見送った。

皆んなでてんくんの無事を希った。

そのあとカランとした病室のソファーに座っている。

やっぱり見送るのって寂しい。

あたしはオルゴールを鳴らして寂しさを紛らわす。

少し眠くなった。


ああ、これ、覚えのあるやつ…




第二章  完


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