第58話 てんくんのプレゼント

3日後、壮行会が開かれた。

なみちゃんはちゃっかり碧子さんにも手伝ってもらっていた。

壁にはモールが飾り付けられて華やかだ。

《てんくん がんばれ! いってらっしゃい》と紙のステッカーも貼られている。


「わあー ありがとう、皆んな!」

てんくんは目を輝かせて、ハイテンションになっている。

実のところ、あたしが来てから後『さやちゃん同盟』は半数近く入れ替わっている。

でも、てんくんは一番小さいせいか、すぐ親しくなるし皆んな気にかけてくれる。

あるあるかもしれないけど、子供であたしが見えないなんて子もいない。

あたしも安心して参加できるというもんだ。


「こんなに皆んなが集まって壮行会?してくれるなんて思わなかったな〜」

「うん! 皆んなてんくんが良くなるって信じてるんだから頑張ってね!」

「そうだよ! てんくん、絶対だよ!」

皆んなが口々にそんな可愛い声をあげる。


その後1時間ほど談笑し、ちょっとおやつを食べて会は終了した。

皆んなが名残惜しげに帰って行く。

てんくんは今日で最後という訳でもないのに寂しそうな顔になった。

もらった空色の寄せ書きを指でなぞり、黙っている。

あたしはそっとてんくんの手を握り、顔を見合わせて微笑んだ。


「さやちゃんがいるって良いな〜」

「ふふっ、何それ?」

「うん、心が闇に追い付かれないんだ」

…やはりこの子は感性が鋭すぎる。そしてそれを言葉にする術を持っている。

あたしはなぜか物悲しい気持ちになった。

生き急ぐ人をみるような気持ちになったとでもいうか、、

「てんくんは大丈夫だよ…大丈夫!」


「そうださやちゃん! プレゼント、やっと出来上がったんだ」

そう言うとてんくんはベッド横の棚から、ごそごそと可愛い包みを取り出した。

「はい! これ!」

ああ! あたしが待ってた物だ! そっと受け取る。

「開けても良い?」

「うん、見てほしい!」

包みを開けると絵のはずが、何か四角い小さな箱があった。

よく見ると3センチくらいの面に、てんくんの絵が描かれていた。

一面は珪藻、一面は粘菌、そしてこれは…クマムシ! 可愛い〜

てんくんったら、良くこんな小さな絵が描けたな〜しかもすごく風情がある。

箱にはストラップ様の鎖と何か取っ手が付いている。


「さやちゃん、その取っ手を何回か回してみて」

「うん?…これ?」

くるくる、くるくる…

「もういい?」

てんくんが頷いたので手を離すと、可愛い音が鳴り始めた。

オルゴールだ!

懐かしいような音色だけど、知らない曲だった。



「タカくんの『粘菌狂想曲』だよ」









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