第45話 パパ
碧子さんが出て行った後、あたしも部屋を出て、少し歩いていた。
今日は土曜日だし、お昼の配膳も始まって、少し騒がしい。
通路の曲がり角で右側からまわり込んできたおじさんにぶつかりそうになる。
おっとっと…とあたしは体勢をくずす。
あたしが姿を消しているから仕方ない。
ちらっとおじさんの顔を見て、なんて疲れた顔の人だろう…と思う。
あたしはそのまま、『さやちゃん同盟』のメンバーの部屋に向かった。
ふと、何か違和感を感じて立ち止まる。
「…あのおじさん、、、えっ?パ…パパ?」
雰囲気がすっかり変わってしまってるけど、パパだった!
あたしは慌てて振りかえり、パパのあとを追いかける。
パパ! パパ! 待って!
先の方にパパの姿が見える。
「パパ!!」
もう少しと思った先でチーンとエレベーターが到着し、パパが乗り込む。
待って!!
あたしのほんの鼻先でエレベーターのドアが無情に閉まった。
あたしは下行きのボタンを急いで押した。
追いかけなくちゃ!
…あ!姿を消したままじゃ気づいてもらえないよ!
周りを見て、こっそり姿を現す。
チーンと開いたエレベーターにあわてて乗り込む。
え…と、一階かな?それとも?
動き出したエレベーターは悩んでいる内に二階で止まり、何人か降りていく。
その間からパパが見えた!
あたしもあわてて降りて駆け出した。
パパは二階から一階につながるエスカレーターに乗ったところだ。
待って!! 待って!!
エスカレーターを走って降りたかったけど、前に人がいた。
足の悪いおばあさんを息子さんらしき人が支えていた。
お願い! 早く着いて!
今パパは、正面玄関の回転ドアを抜けるところだ。
やっと着いたエスカレーターから、あたしはまた走った。
ドアをやっと出たところで、タクシーに乗り込むパパが見えた。
「パパー!!」
パパはちょっとこっちを振り向いたけど、そのまま乗り込んだ。
タクシーはゆっくり走り出す。
あたしはまた走る。
道路に出るためにちょっと停止したあと、タクシーはすぐ発進した。
パパー!!
あたしも道路に出ようと片足を上げてから固まった。
道路に踏み込んだ途端、てんくんの病室に戻ってしまう!
あたしの胸の中を嵐のようにいろんな思いが渦巻いた。
「うわあーーーん」
あたしは歩道にしゃがみ込みすさまじい勢いで泣いた。
パパーーパパーー
やっとやっと会えたのに!
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