第42話 治療方針
「てんく〜ん、今日は新しい本を持ってきたよ〜」
と現れたのはてんくんのお母さん。
すごく若々しくて、お姉さんと呼びたいくらい。
「わあ、何なに? どんな本?」
「ね、ん、き、ん」
そう聞いて、てんくんはキャーと歓声をあげる。
…年金に聞こえるけど、流石にちがうよね。
覗いてみると『粘菌』と書かれていた。
今ある『変形菌』の本は2冊なので、新しい本が欲しかったんだね。
「あら、さやちゃんも興味ある? あとで一緒に読んでね」
てんくんのお母さんもお父さんも座敷童子好きらしい。
あたしのこともびっくりせずに受け入れてくれた。
こんな不思議があるなら、てんくんもきっと良くなるって信じているみたい。
可愛いなと思ったのは、二人をてんくんが呼ぶ時だ。
「おかさん」「おとさん」と言うからちょっと吹きそうになる。
もっと小さい頃は「おかしゃん」「おとしゃん」だったというから可愛すぎる。
実はこの前、担当医からの病状報告があった時ついていったの。
すごく気になったから…
もちろん姿を消してね。
お父さんとお母さん二人共いたので、予め予定してたのかな。
ちょっとした個室のような部屋に招き入れられた二人は少し緊張した面持ちだ。
担当の
「どうぞ」と椅子の方を示されて、お父さんとお母さんが座る。
「何時もありがとうございます」
「いえ、お二人も大変でしょう」と医師は優しく言った。
「こちらが
“てんくん”は愛称で、変わってるけど“天音”がほんとの名前なの。
机の上のパソコン画面の前に止められた画像に二人は見入る。
「こちらが入院時のもので…気になる程ではないですが、変化が見られます」
あたしものぞいたが、よく分からない。
「化学療法をすぐストップしたせいか、僅かに大きくなっているようです」
二人は息を呑んで、黙っている。
「良性と見られるため、これ以上急な変化は無いとは思います」
二人共複雑な顔をしている。
「今後の治療方針を決めたくておいで頂いたのですが…」
医師は二人に何か資料を手渡した。
「化学療法に入る前にもご説明しましたが、手術と放射線治療です」
「どうしたら…」
お母さんは手を握りしめながら、戸惑うように言う。
「浸潤が少なく手術が可能なら、それが望ましいです」
「それじゃあ…」
二人は藁にもすがる思いなのだろう。
「ただ前にも言いましたが、
かなり危険な位置にある腫瘍のため、前回は化学療法を選んだらしい。
手術で血管や神経が傷つくようなことがあれば、重大な障害が残るからだ。
放射線治療も癒着が起きやすいため、その後の手術が困難になる。
だから手術しないというケースでなければ選ばない。
「勇気を持って手術を決断されるなら、脳外科医に一度診てもらいましょう」
「診ていただいた後、お話を聞いて再度検討してもよろしいでしょうか」
お父さんがお母さんの肩を抱きながら聞いた。
「もちろんです。人生を左右する決断なんですから」
お母さんは震えるようなため息をついた。
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