第18話 部長の話

次の日全員が集まったところで、お姉さんは話の内容を教えてくれた。



ーーーーーーーー(部長さんの話)ーーーーーーーーー


音野さんの話は良く分かりました。

それについては僕にも、今までしっかり話を聞いてこなかった非があります。

君が1年半もの間、苦労していたのも良く分かっています。

ただ、君を見放して放置していたのではないと知ってほしいのです。


君は我が社の伝説のM氏のことを知っているでしょう?

高卒でありながら、独学で比類ない研究をした人です。

彼の研究は、本業で潰れそうだった我が社に、違った分野を示し救ってくれた。

当時、低学歴でも素晴らしい人材を育てようという気運ができた由縁です。

我が社肝いりで、化学工学を学ぶ、社員として給与の出る学校ができたんです。

今では無くなってしまいましたがね。


君の上司、洲本君はその最後の学生でした。

非常に優秀でしたよ。

ところが、会社の扱いとしては4大卒と同じという訳にはいきません。

君は彼の本気の仕事振りを見ていないかも知れない。

しかし、優秀さだけでなく努力で、素晴らしい仕事をしてくれました。


やっと役職を与えられるところまで来て、部下を付けることになったのです。

ここで僕は判断ミスをしたかもしれない。

男性の部下を付けると、反発が起きるのではと考えたのです。

女性であることで、ワンクッションになるかと期待した。

今考えると、別の意味を考え及ばなかった。

彼の世代、僕も含め、口では男女平等を謳いながら差別意識があるものです。

何しろ僕たちの若い頃は、女性が昇進で差別されるのは当たり前でしたから。


彼は自分より若い連中がさっさと出世していくのを見なければならなかった。

時には、あきらかに自分より劣る人間がです。

そこに配属されたのが君です。

女性であっても、現代では多少の差別に拘らず、彼より早く昇進するでしょう。

無意識の差別意識から、割り切れない気持ちがすべて君に向いたのではないか。

休みなく君を働かせ、夜遅くなってもお構いなし。

周りからの注意忠告も無視しました。

僕の予想しない反応でした。

彼は今まで、どちらかと言うとフェミニストのようでしたから。


僕はそばで見てきて、彼の気持ちが良く分かります。

だから、途中で部下を奪う勇気が無かった。

彼のしたことは良くないが、心情は分かってやってほしいのです。

音野さんには申し訳ないことをしたと思っています。

これ以上の我慢を強いるつもりはない。

君はどうしたいですか?

配置転換を希望するなら、最大限便宜をはかります。




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