第16話

お姉さんとお兄さんはたまに意気投合して2人で美術館なんかに出掛けたりする。

でも軸足は常に、タマちゃんと過ごす時間だった。

あたしたちはアパートという繭の中でひとつの家族のように幸せだった。


お兄さんは新しい絵本に取り組んでいる。

取材に出かけたあと、いろんな場所の写真を部屋に貼っていた。


その中の一枚にあたしは目をひかれた。

駅のホームにどっしり木が生えている。

ん〜知ってるような気がする…

また記憶は途切れた。


お姉さんにその話をしたら、お兄さんにどこの駅かきいてくれた。

「これは萱島だな…神社の御神木なんだよ。」

あたしの中で、ぐるぐるいろんな駅名が渦巻いた。

「京阪の駅! 通ったことある。うちの駅から二つ目なんだよ。」

「二つ目…?」


お姉さんは、はっとしてスマホ検索して言った。

「さやちゃんの家、香里園だったのかしら?それとも古川橋?」

「ん〜とね、古川橋じゃないと思う。」

「さやちゃん、近くで遊んだりした所、思い出せるような場所はない?」

「てんがいた頃はねー、河川公園で遊んだよ。まむたの堤の石もあったの。」

「…てん?」

「てんはねー、5歳の時まで飼ってた芝犬なの。」

「まむたは?」

「まむたは茨木の木が田んぼって字なの。まったって言う読み方もあるよ。」


「石って石碑かしら?」

「それそれ。 仁徳天皇が作った堤防だって、パパが言ってた。」

「それなら香里園だね。取材中に話を聞いたよ。」

お兄さんが当時人柱を機知で逃れたコロモコの話をしてくれた。

瓢箪を浮かべて、われが欲しくばこれを沈めてみよと川に呼びかけた。

当然瓢箪は沈まず、人柱にならなかったということだ。

「へーそんな話があったんだ。面白〜い。」



お姉さんはあたしのために大きな表を作ってくれた。

推理ドラマのがなかなか良いと思いついたんだって。

思い出した小さなことも書いておいて、全体を見るとイメージが湧くって。


まだ書けたことは少なくて、空白が表を占めている。




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