第13話 お兄さん

ある日あたしは、タマちゃんちで受け取った食材を持って、階段を上がった。

2階に着くと、向こうから男の人が歩いて来た。

例の一番奥の部屋の住人らしい。

その人はあたしを見ると驚いたように固まった。


人じゃないのが分かっちゃったのかな?


「きみ!…なんでそんな着物着てるの?」

なに、この人? 確かに今時の子供の着るようなもんじゃあないけど…

でも、この人あたしが見えるんだ。 中に見えない人もいるのよね。


「あ、ごめん! 実は僕の描きたかった絵がそのまま出て来たみたいでね。」

「絵?」

「うん、僕、絵本作家をしていてね。」

「絵本? わあ、見たいな〜」

「ほんと? 是非見てほしいな。」

男の人はうれしそうに笑った。

「ところで、ノートを持って来るから、きみをスケッチさせてくれないかな〜」

「…絵本のためなの?」

「うん、座敷童子の出てくる話をかいててね。 イメージぴったりなんだ。」

そりゃあそうだろう。

「わかった、いいよ。 あたし、荷物置いてくる。」


こうして、あたしは絵本のモデルになった。

一緒に持ってきてくれたキレイな絵本も見せてもらった。

え〜っ! あたし本屋さんで見かけたことある!


「おじさんって有名人だったんだね。」

「うっ! まさかのおじさん呼び、、、」

うっ! めんどくさいやつだ!

「はいはい、お兄さん!」

後で分かったが、子供の目にはおじさんでも、お兄さんはまだ30歳前だった。


こうしてあたしに三人目のお友達が出来た。




あたしはお兄さんの部屋にも出入りするようになった。


お姉さんほどじゃないけど、お兄さんもちょっと欠食気味だった。

ちょっとしたお料理を作ってあげたりしていたんだけど。

そのうち、それを知ったタマちゃんが一緒にお昼ご飯をと言い出した。


タマちゃん、平日もにぎやかな食事がしたかったのかな?

あたしは基本食べなくてもいいので、気付かなかったけど。


「懐かしい味でうれしいけど、申し訳ないですね。」

「なんのなんの。 あ〜若いおのこと食事なんて! ほんと久しぶりやね〜」

お兄さんはちょっと赤面したけど、タマちゃんは幸せそうだ。 

「絵本も今度見せてな。 そうや、七緒ちゃんも見たがりそうや。」

お姉さんの知らないところで、土日の4人でのお昼がセッティングされていた。


あたしが座敷童子だって、まだ言ってない。

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