第4話 お姉さん

結局…お姉さんが帰って来たのは夜も更けた11時前だった。


お姉さんはコンビニ弁当の袋をぶらさげて玄関で固まっていた。

「…なに、これ」

片付いた部屋を見まわした後、おずおず部屋に上がった。

あたし片付け過ぎちゃった?

「…誰!?…出てこい!」

いや、あたしならここです。(タンスの虫もでてきません。)


でもお姉さんの眼はあたしを素通りして、洗面所の方を見た。

そっと歩いて行ったと思ったら、バッとお風呂とおトイレの戸を開けている。

もちろん誰もいないけど。

「…何なのよ」

お姉さんはちょっと泣きそうな顔でハンガーに掛かった服なんかを見ている。

「110番する?」

「でも何て言うの?…散らかしてた服が片付いてます?」

「…無いな〜」

お姉さん、一人でノリツッコミやめてください。


お姉さんはその後、少し落ち着いたのかぎこちなくお弁当を食べ始めた。

小さなテーブルのお弁当を前に、何故か正座しているお姉さん。

時々びくびく周りに視線をやっている。

…あたしお姉さんを怖がらせるつもりじゃなかったの、ごめんね。


申し訳なかったから、お姉さんがお風呂に入ってる間にお弁当をかたした。

お布団も揃えて、パジャマもそこに置いておく。

…これがいけなかった。

お風呂からでて、お姉さんはゴーーゴーーと髪の毛を乾かしていた。

その後パンツ一枚で戻ってきて、はたと立ち竦んだ。

お布団のほうを見て、まわりを見て……う〜と泣き始めた。


「あっ、ごめんね、お姉さん、ごめんなさい!」

あたしは慌ててお姉さんの前に行き、手をにぎって言った。

そのとたん、お姉さんとあたしは初めて眼があった。


「ぎゃ〜〜〜」

お姉さんはあたしの手をバッと振り払い、部屋の隅まで後ずさりへたりこんだ。

いや、その声恐いです。

「…お姉さん、ごめんなさい。余計なことしちゃって。」

お姉さんはあたしの声が聞こえてるようなのに、黙ってこっちを睨んでいる。


「…出てって…出てってよ!」

そりゃそうだ。 知らない子がいきなり部屋にいるんだから。

なぜかやっとあたしが見えるようになったみたいだし。

…だけど出ていくって、どうしたら良いんだろう。 思うようにいかないし。

あたしは本当に情けなくなってヘナヘナとすわりこんだ。 

「早く出て行きなさいよ!」

お姉さんはさらに言いつのる。

「うう…行けないんだもん…あたしだって帰りたいのに…行けないんだもん。」

あたしはわあわあ泣き出した。 やりきれなくて泣いてるのに涙は出てこない。

えっ……あたし、涙も無くなっちゃったの?

あたしがすごく哀しそうに見えたのか、お姉さんは嘘泣きだとは言わなかった。


お姉さんは反対に落ち着いてきたみたいで…

「送ったげるから。」

そう言ってスエットをパパッと着込むとあたしに手を差し出した。

…行けるかな〜 お姉さんと一緒なら行けるかも!

あたしはお姉さんに連れられて部屋をでた。

今度こそ前の道を歩いてお家に帰るんだ!

手をつないで階段を降りる二人の足音が重なる。

「お家はどっちなの?」

お姉さんはそう聞きながら、反対側の道のほうに出て、一歩踏み出した。

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