第93話 芸術はバクハツだ!

 図書館で借りてきた岡本太郎の伝記を読んで号泣してしまった。

 年を取って涙腺がゆるくなった藤光です。


 岡本太郎――知ってます?

 アラフィフくらいの年齢だと、「芸術は爆発だ」という言葉と共に時折テレビで見ることができた、おもしろい言動をするおじいさんタレント――として覚えている方も多いと思います。そもそもは画家であり、彫刻家です。


 最も有名な作品は『太陽の塔』。

 1970年に開催され、いまだに「万博ばんぱく」として語り草になっている、「日本万国博覧会」通称「大阪万博」のシンボルとして有名なモニュメントです。


 当時、「万博」がどのくらい日本社会に影響があったのか、わたしは実体験としてしらないのでなんとも言えませんが、「大阪万博」以降、20年余りの期間にわたって「〇〇博覧会」というイベントが全国各地で数えきれないほど開催されたのはよく覚えてます。みんな「〇〇博覧会」と名付ければ、集客が見込める(金儲けできる)と思い込んでいたのでしょう。それくらい「万博」には人が詰めかけました。来場者数は、6000万人を超え、日本人の半数以上が会場に足を運んだ計算になります。


「大阪万博」の掲げるテーマは、『人類の進歩と調和』。目玉となる展示品は、アポロ宇宙船が地球へ持ち帰り、アメリカ館に展示された「月の石」です。まさに人類の進歩と科学技術の勝利を象徴する展示品だったわけですが、この万博会場を見下ろすかのようにそびえる『太陽の塔』は、進歩やテクノロジーとは無縁、人のもつ原始の力に形を与えたかのような造形になっています。岡本太郎があえてそうデザインしたのです。


「なにが万博だ。なにが進歩と調和だ」

「われわれに必要なものはコレだ」


 岡本太郎は、反駁と反骨の人なんですよ。


 万博記念公園には、何度か行ってますが、期間中6000万人が訪れたという万博会場の面影はどこにもないです。50年たって『人類の進歩と調和』はあとかたもなく姿を消してしまいましたし、世の中から「〇〇博覧会」というイベントが行われなくなってしまって20年ほど経ちますが、『太陽の塔』だけは変わらないままそこに立っていて、いまも人の世界を見下ろしています。その奇妙な姿は、この50年日本人がなにを失い、なにを得てきたか……を示しているようで、とても興味深いです。


『伝記を読もう 岡本太郎 芸術という生き方』(平野暁臣 あかね書房)

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