第92話 こんなことが起こるとは思いませんでした。

 安倍晋三元首相が亡くなった。

 参議院議員選挙の応援演説で訪れた奈良で銃撃されたのだ。

 平和とされている日本でこんな事件が起こっていいのか、非常にショックである。

 亡くなった元首相の親族、友人、同僚の方々が受けた衝撃の大きさを思うと暗い気持ちにならざるを得ない。心からお悔やみを申し上げる。



 ずっと以前から、わたしのエッセイや近況ノートを見ている方ならご存じかと思いますが、わたしは安倍元首相の政治手法をまったく評価していません。そして、世間にはわたしと同じように感じている人も少なからずいるようです。


 しかし、この事件の一報に触れた後、Twitterをチェックしていると……


>自業自得だ。

>ザマアミロ。


という内容のツィートに出会いました。


 なんという不見識。


 政治的立場が違うからといって、意見表明をしている個人の口を暴力で塞ぐような行為を積極的に肯定するようなツイートをするとは、言語道断です。このようなツイートをした人は、今回、安倍元首相に向けられた暴力が、自分自身に向けられることを想像してみたらいいと思います。


 だれもが公共のネット空間で思ったままツイートできるのは、この国で表現の自由が保障されているからにほかなりません。今回の事件は、(外形的に見える限りでは)表現の自由に対して向けられた暴力です。


 ――気に入らないことを言うヤツの口は、暴力で塞いでやる。


 選挙の応援演説はもちろん、Twitterでツイートを流すのも表現の自由の発露ですよ。こんなことがまかり通るなら、Twitterで好きなように呟くことはできませんし、カクヨムで自由に小説を書くこともできなくなる理屈です。日頃SNSを使っている人や、小説投稿サイトに小説を書いている人は、怒らなくちゃいけないし、危機感をもたなくちゃいけない。


 銃弾は自分に向けて発射されていたかもしれない。


 ――くだらないことを言うヤツは殺してやる。


 そんな風に考え、実行してしまう人間を生み出す空気が、この国を包み込みはじめているのかもしれない。それがとても腹立たしい。



 この事件でもっとも怖いのは、暴力を恐れてこの国の政治と表現の自由が委縮してしまうことだと思います。

 10日は、参議院議員選挙の投票日です。候補者の方々のなかには、この事件が起こったことで恐ろしい思いをしている方もいるでしょうが、委縮することなく選挙活動を続けて投票日を迎えてほしい。いま、この国の民主主義が試されていると思います。

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