第76話 賞賛の向こうにあるもの

 わたしが通っていた高校には「ボクシング部」がありました。部活にボクシングがある高校は珍しいようで、同級生は同じ階級に対戦相手がおらず、高校レベルでは「大会出場=県代表」というマイナースポーツでした。


 部員も少なくて、全部で5、6人もいなかったと思います。プロボクサーでいうと辰吉丈一郎が同学年というわたしたちの世代。ボクシングをやるのは「不良」というイメージでした。うちの高校はヤンキーのいないへタレ高校だったので、ボクシングをやりたいって奴は少なかったですね(わたしも含めて)。


 そんなボクシングの練習場は空っぽなことが多く、練習場が隣同士だったわたしたち卓球部員は練習をサボっては、サンドバッグやパンチングボールを叩いてボクシングの練習をしてました。ピンポン球を打つよりパンチングボールを殴る方が上手な卓球部員でしたね。


 その程度にはボクシングが好き。




 ネットニュースを見てると、先日、ボクシングの世界タイトルマッチに勝利して、WBC、WBA、IBF三団体統一世界チャンピオンとなった井上尚弥選手が、世界的にもっとも権威のある米老舗ボクシング専門誌ザ・リングの階級を超越した最強ボクサーを決めるパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングで日本人史上初のPFP1位に選出されたらしいですね。


 見ました? 先日のタイトルマッチ。

 YouTubeにアップされてますが、《(えげつない》》強さですね。井上選手の試合をはじめてまじまじと見ましたが、です。ああいう拳を持ったボクサーは強いです。カウンターをとるセンスも素晴らしいと思いました。


 井上選手は「モンスター」と言われているらしいですが、なるほど怪物級の強さだ。


 そりゃ、パウンド・フォー・パウンド(全階級のボクサーが同じ階級で戦った場合、誰が一番強いかを決めるのがPFPランキング)1位にもなるでしょう。勝ちっぷりも凄まじいですから。



 ところで、


 ネットメディアは、タイトルマッチの翌日から連日井上選手の記事を流していて、昨日には「リング」誌でのPFP1位を報じました。浮かれ過ぎです。日本人チャンピオンが「世界一」と評価されたことがうれしいのは分かりますけど、毎日毎日「井上の試合は海外でこう評価されている。すごいぞ!」みたいな記事を読まされて食傷気味です。


 どれだけ海外からの評価を気にしてるんだ?

「井上すごい」ばかりの記事を流すメディアは幼稚でないか?

 


 メディアの伝える記事の端々に「自信を失った日本人の自意識」が垣間見えて、イラッとするのはわたしだけでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る