第59話 関係性の二人称

 前回、「高校生のとき、卓球部員だった」というようなことを書いたと思いますが、今回はそのことから。


「部活は卓球部にしようかな」


 同じ中学から進学した友達と一緒に卓球部の練習を見学にいったときのこと。卓球場の扉を開けて覗き込んでいるわたしたちを見つけたひとつ上の先輩が、


「キミら卓球部の見学に来てくれたんか」


と声をかけてくれたのを、昨日のことのように覚えています。『キミ』という二人称に感激したんです。


 ――さすが、高校生は知的で繊細、上品なもんやな。


 わたしの通っていた中学校は海沿いの学区にあり、元々は漁師町だった集落の多い地域でした。小さな船に自分の命を預けて海に漕ぎ出す漁師たちは、とにかく「気合」が入っている人が多く、気性も言葉遣いも荒っぽい。俗にいう「柄が悪い」というやつ。


 男同士、会話する時の二人称はもれなく「おまえ」で「キミ」とか「あなた」とか言うわけないんですよね。だから、街中の高校に進学した時に「キミ」と呼ばれた時は、


 ――街中の高校は違うなあ。


と感激したのでした。


「おまえ」という二人称が、剥き出しの個人と個人とが直接触れ合っているような感じがするのに対して、「キミ」という言葉は、個人が敬意という服を纏っているような感じがしますね。高校生になったばかりのわたしには、それが非常に洗練された人間関係に感じられた――ということなのでしょう。


 長い間人間をやっていると、服を纏った言葉のやりとりばかりが積み重なってきて、いい加減生身の言葉で話したいと思うようになりますよね(笑)こういうのも小説を書く動機の一つかなあ。


「おまえ」って二人称。嫌がられます。でも、「おれ――おまえ」の関係性がラクでいい。素の自分でいられるというか。。。あれれ、わたし対人関係に疲れてるのかなあ。

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