第38話 恥を書く

 小説を書くにあたって「こんなこと書いて変な人だと思われないかな」と少しためらってしまうようなことこそ、がんばって書くようにしています。


 だから「恥を」。


 おもしろいことや楽しいこと、かっこいいことは書いていて楽しいし、気が楽です。本来は隠されていること、一般的に不道徳なこと、自身のコンプレックスに関することなどを文章にすることには、だれもが抵抗を覚えると思います。


 でも、そういう自分(作者)としては、隠しておきたいことほど、読者は読んで感銘を受けるものだから、小説を書こうとする人は進んで自分が恥ずかしいと感じることを書きなさい――というようなこが小説の指南書に書いてあったりします。


 作家なら、みんなそうしなさいというわけではありませんが、だれも傷つかないお行儀のよい文章を読んでもおもしろくない。かといって他人を傷つけるようなことを書くわけにもいかないので、小説を書く人は自分自身の感覚や体験の中に、おもしろいことを見つけないといけません。


「人の行動や考えていることを覗き見する」って、褒められたことではありませんが楽しいじゃないですか。テレビのワイドショーや写真週刊誌はそういうことをネタに作られていますし、SNSやネットニュースで流れる芸能人のゴシップが止まることはありません。みんな他人の事知りたいんです。そして、自分と引き比べてみてうれしくなったり、悲しくなったりするのでしょう。


 自分のことを小説に書く(もちろん、直接書くのではなくて小説のなかのキャラクターや出来事に仮託して書くんですけど)のは恥ずかしいです。でも、普段だれにも言えないこと(現実の知り合いに話したら『なにこの人』とドン引きされそうなネタ・シチュエーション・セリフなど)を小説のなかに書いていくと、とてもスッキリとすることがわかってきました。胸の内にわだかまっていたものが溶け出ていくような、肩の荷を下ろして身体が軽くなるような――そんな気分になります。なんというか、心のデトックスです。


 現実世界で恥をかくのは辛いですけど、小説の中に恥を書くのはけっこう楽しいです。

 また、小説書いてみます。

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