第35話 ザビエルはげと言われ……

 ひどくないです? 親しき仲にも礼儀ありですよ。

 わたしの頭頂部は、はげてないです。(ま、自分でじぶんの頭頂部はなかなか見ることはできませんが)


 うちの奥さん、わたしの頭頂部を指して「ザビエルはげ」だというわけ。なにをたわごとを。とずっと無視していましたが、最近息子までが「お父さんはげてる」といいだします。


 ――お母さんが妙なこというからだ。おれははげてない。


 確かに。若いころと比べて髪の毛が減って地肌が見えてきているけどね。風呂上りはそれが甚だしいけどね(爆)「ザビエルはげ」言いすぎだろ。


「ザビエルはげ」分かってもらえるでしょうか。

 歴史の教科書とかによく載っている絵があるじゃないですか。『聖フランシスコ・ザビエル像』ってやつ。安土桃山時代でしたか、日本にキリスト教の布教にやってきたイエズス会の宣教師です。『ザビエル像』のなかで、ザビエルは頭頂部がはげた男性として描かれてます。とにかくインパクトのあるルックスなので、小学生男子に格好の落書きネタを提供してくれる絵として有名ですね(ホントか)。


――という風にザビエルと関わりのある、わたし。そのザビエルに会いに行ってきました。


『聖フランシスコ・ザビエル像』は、神戸市博物館に収蔵されています。神戸で働いてますが、そんなこととはずっと知りませんでした。有名なザビエル像なので、知った時は「そんなに身近にあったとは」と驚きました。調べてみると、作品が傷まないよう普段はレプリカが展示されているようなのですが、この春の期間中だけはが展示されているとのこと。仕事帰りに見てきました。


 当たり前ですが、教科書にあるとおりのザビエル像です。決して上手な絵ではないのですが、あの真っ赤な心臓と十字架にかけられたイエス・キリストとが繋がったイメージからは強い信仰心が感じ取れますし、微妙に皺の寄った画面とか、絵の具の重ね塗り具合に三百年以上前から伝わるという年月の重みが伝わってきました。


 ザビエルはげは「トンスラ」と呼ばれるキリスト教修道士のヘアスタイルで、決して禿げてるわけではないらしい。イエズス会ではトンスラの習慣はなかったのでザビエルは『ザビエル像』のような姿ではなかったかもしれません。


 いまキリスト教の修道士はトンスラしないらしいですし、いろいろな意味で「ザビエルはげ」は間違っているようでした。ま、うちの奥さんはそんなこと知ったこっちゃないでしょうが……。

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