第26話 自分の形があると強い?

 むかし、多賀竜という力士がいました。

 時代は、千代の富士や小錦、若島津といった華のある人ではなく、ぱっとしない(とても失礼ですが、わたしのイメージで)地味な力士で、いまとなっては知っている人もいなんじゃないかと思います。


 Wikipediaで調べると、生涯成績は557勝621敗10休。長いあいだ関取(十両以上の力士)として活躍したことは確かですが、とりたてていうほどの成績ではありません。が、この幕内力士としては平凡な多賀竜、一度だけですが幕内優勝したことがあるのです。


 当時、中学生だったわたしはびっくりしました。

 失礼を重ねますが、多賀竜関は素人目にも大関、横綱になれるような力士じゃないとわかる力士でした。やっぱり、大関、横綱になる力士は、人の目を引く相撲を取るんです。地力が違うというか。その点、多賀竜関は、いかにも平幕どまりだろうという力士だったのです。


 それがいつのまにか、優勝争いのトップに立って、そのまま優勝してしまった。なにかとり憑りついているんじゃないかってくらい。そして強かったのは、その場所だけだったというところがまた、多賀竜関っぽい。初優勝以降は、よくいる幕内力士に逆戻り。なんだったんだろうあの優勝は? と、いまでも思いますし、だからこそ40年近くたったいまでも覚えています。


 当時のNHKの解説者の人が「多賀竜にはかたがあるから。形にハマれば力が出る。器用になんでもできるだけではダメ。じぶんの形をもった力士は強い」って解説してくれたのをよく覚えてます。強い力士というのは、相手の力をいなしたり、殺したりして、相手の形をつぶし、反対に自分の形に持ち込むことができる能力が高い力士だということなのでしょう。


 ☆☆☆


 カクヨムで「おもしろいなあ」って「また読んでみたいなあ」っていう作家さんがいるんですけど、そういう人たちは自分の形をもってますね。特にいまはKACが開催されていて2、3日に一度、その人たちの短編を読むことができるのですが、そういう人たちは、自分の形の範疇にお題をまとめてきてます。


 この人はホラー、この人は恋愛、この人はSFと。書いてくるものがだいたい決まっている。わたしの場合、どういう作風なのか分かっている人の方が読みたくなります。そういう作家さんからKACは読んでますね。


 読む側としては、とても頼もしい。「形=クオリティ」が保証されているので、安心して読める。はずれがないというのは、リピーターを引きつけますよね。「この人ならこういうのを書いてくれるだろう」という期待の元、読者が集まるというか……。どうせ読むならハズレは引きたくない。質の高い小説を読みたいですからね。


 それを踏まえて自分の小説を見てみると、バラエティに富む、というか、かなりとっ散らかっているように感じました。「藤光ならこういうのを書くだろう」って想像しにくい作風ですよね。


 固定の読者層を得ようと思ったら、描くジャンルや文体はまとめた方がいいんじゃないのかなと、今回のKACを通じて思うようになりました。いまさらなんですけどね……。

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