第12話 意地を張る
今朝、自主企画の三題噺に投稿していただいた一宮さんの作品をとても興味深く読みました。「逃げる」ということの弱さと強さをテーマに書かれた短編ですが、三題噺にしておくにはもったいない力作です。
そして、作品の内容とはズレているのを承知で、これから書くようなことがポロポロとわたしの頭の中を巡って止まらなくなってしまったのでした。
読んで思ったってのは、うちの奥さんと息子のことなんですけど(また家族ネタか)。
息子が家で「◯◯くん、嫌いやねん。ぼくのこと叩くから」とたびたび愚痴っていると、心配した奥さんは「次そんなことされたら、先生に言いなさい」と言い聞かせています。子どもがいじめられるのは辛いし、◯◯くんが悪いのは明らかですから、至極もっともなアドバイスです。
でも、わたしは奥さんの言いつけどおり、息子が先生に友達から叩かれたことを言うとは思えません。少なくとも、わたしなら言わない。小学生とはいえ男子です。先生に友達のことを告げ口(しかも自分の弱音)を吐くなど、男の沽券にかかわると思ってるはずです(笑
男は意地を張る生き物です。小学生にしてプライドの塊です。
男社会では、常に序列化のゲームが行われています。だれが強くて、だれが弱いのか、じぶんはどの位置にいるのか、競っています。そしてそれは日々更新されています。小学生ならけんかしたり、ふざけ合ったり、かけっこしたり、ときには勉強でも。
そして、男は毎日、じぶんの序列がどのあたりなのか確認せずにいられない生き物です。序列上位の男は、序列下位の男に対して偉そうにしてよいという不文律があるからです。また、序列上位の男ほどいい女(その基準はさまざまあります)を手に入れる可能性が高くなります。
本質的に野生動物と変わりません。
理屈ではなく命の希求するところ、Y染色体に刻印されたオスの宿命です。
例えば面識のない男同士が顔を突き合わせたとすると、無意識のうちにひとつの考えが、ふたりの男の頭をよぎります。
――こいつはおれより、上なのか、下なのか?
だから序列づけの済んでいない男同士の関係はとても不安定で危険です。不穏な感じがつきまといます。子どもなら腕力で、大人なら年齢、肩書きや出身大学、または雇い主と従業員、店と顧客といった関係性などで、お互いの序列づけを済ませてからでないと話が進まないことがあります。
軍隊の階級章など、序列の見える化の典型でしょう。階級章はことさら目立つように付けられますが、それには大きな意味があるのです。一目で序列がわかるので、男同士、無用の争いを避けられます。何千、何万という男を即時・有機的に利用しなければならない軍隊には必須のものです。男は序列を信仰しているといってもいいくらい、序列には従順です。
そのため、男はつねにじぶんの序列を上げることばかり考えています。男性にとって、じぶんの序列が下がる行為は悪いことであり、避けなければならないリスクです。
最初の話に戻ると、息子はじぶんの弱味を晒すことで、一時は先生の庇護を得られるかも知れません。ですが、それは友達との序列化ゲームを降りることを意味します。「先生に言いつけやがって、弱虫が!」という友達からの侮蔑がこもった言葉を息子が平気で受け入れられる――とは、わたしには思えません。
ばかですよね。
男は、ばかな生き物なんです。ばかでない人は「ばかだね〜」と笑って、そのままそんな男を放っておけばいい。じぶんがばかなことをしているは分かってるので、放っておいてもらえるのが、いちばんありがたいのです。
飲み屋の大将やママ、お姉さんが、お客のおじさんのことを誰彼なしに「よっ、社長」とか「社長さーん」と呼んだりします。お客相手の見えすいたごますり――と若い頃はばかにしていましたが、組織のトップであることを示す「社長」と呼ばれて傷つく男性はいないのです。この年になると、ばかどころか、男性に対するリスペクトが込められた二つとない良いフレーズだなと感心せずにはいられません。
あー、小説の感想のつもりが大脱線してしまった。めちゃいろいろ考えることができました。一宮さん企画に参加してもらってありがとうございました。
――で、結局うちの
親は子どものことを心配しすぎるなということでしょうか。
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