最終問題−4

 もう、大丈夫だ。落ち着け。覚悟を決めろ。


 息を整えると俺は目の前の柵に足を掛けた。手を置き力を込める。目的地だけを見ればいい。一点集中だ。


 躊躇ったら死ぬ。やはり、これは覚悟を問う問題。命の限り家族を守る覚悟。もう迷わない。ただ、真っ直ぐに……飛ぶ。


『やっぱりスゴイね、纏井くんは。最後まで諦めない姿勢に感心するよ。君なら立派な父親になれるんだろうなぁ』


 芦屋さんの言葉が背中を押してくれた。こんな俺を信じてくれた。体が宙を舞った。生きる為に、死をも覚悟する。いや、乗り越える。一瞬がこんなにも永く感じる。


 足先がしっかりと着地点を捉えた。るるちゃんのいる秤の上に飛び移る事に成功した。怖かったのかるるちゃんは俺にしがみついてきた。


「もう、大丈夫だよ」


 まるで自分に言い聞かせてるみたいだった。


 時間の感覚がわからなくなっているが、最後に理央と会ってからどれくらい経ったのだろうか? テティスの言葉が本当なら、俺にもし子供ができたのなら、理央は妊娠しているって事だろ?


『皆、命の重み尊さは同じ』


 だったら、理央の乗る秤の上にある命は2つ。一方、るるちゃんの秤の上には命が1つ。そもそも釣り合ってなかったんだ。もし、あの場所で俺が立ち向かえず選ばないを選択していたら、全員が死んでたんだな……。


 しかし今、俺の命を合わせて2つ。


「これで天秤は傾かなくなったはずだっ!」


 俺はスマホの選ばないをタップして選択した。その時、俺の元いた足場は崩れて雲海へと消え去ってしまった。


「これが俺の回答だよ」


 テティスの返事は無かった。反応を待っていると、少しして俺達の乗った天秤も崩れ始めた。


「くっ」

「きゃぁああああっ」


 悲鳴をあげる理央。落下する俺もるるちゃんを抱きしめているのが精一杯だった。


 雲海へと吸い込まれると目の前が真っ白になり、俺は意識を失ってしまっていた。

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