最終問題−3
画面の選択肢をタップしようとした刹那。指先へ決意が届く寸前、どこからか声が聞こえてきた。
『合理的じゃないな』
「えっ…?」
思わず辺りを見渡すが誰もいない。いる訳がない。ただ、こんなにも静かで哀しい天空で他の誰かを感じる事ができた。その声はなぜか俺をもう一度奮い立たせ、孤独を打ち消し、力強く心に響いた。
「なぁ、秋風だよな?」
返事なんてあるわけないけど、合理的に考えて秋風しかいない。あいつの口癖だったしな。しかし、何で今そんな言葉が聞こえる? ふと感じた疑問は心の中でどんどん大きく膨れ上がる。
思えば俺はこの最終問題が始まってから取り乱してばかりで、まともに考えていなかった。この理不尽すぎる状況に嘆いてばかりだった。
秋風の声で冷静さを取り戻した俺は、目を閉じ集中し光と音を遮断する。脳をフル回転させ思考を開始する。
何か大切な事、重要な事を見落としていないか?
自分自身に問を出す。この場面において、合理的じゃないこととは?
今までの出来事を脳内で再生する。何か、何か引っ掛かれ。何か気付け。違和感を感じろっ!
「……そういえば」
同じ場所。前回の天秤での問の事を思い出した。テティスの言葉。
『子は大切で儚く尊い。守るべき存在だ。そして、育ったその子らは大人になる。次世代へと引き継ぐ番だ
ただ、人の子は勝手に育つわけではない。誰かが育てていくのだ。しかし、育てる人間が愚かならば子もまた愚かな大人になる。その連鎖を断ち切る為の選別なのだ
あんな容易な問にすら正解できない、自分の頭で考えられない他人の言いなりになるような大人はやり直して当然』
「そうだった。大事なのは、模範となる大人の行動だったよね芦屋さん」
全部分かったよ。合理的に考えて殺す気ならとうに殺してる。死ぬしかない選択なんて合理的じゃなさすぎる。俺はまだ試されてるんだ。だからこそここも突破する方法がきっとある。
大人が簡単に諦めてどうする? 文句ばかり言って嘆いてどうする? 与えられた理不尽に屈するな。
俺は大きな勘違いをしていた。命に代えてでも?
「大馬鹿野郎がっ!」
他に誰がいる? 俺じゃないとダメだろ。命の続く限り生きて、この手で! 家族を守るんだ!
与えられた選択肢を考察する。どちらかを選択するとどちらかが死ぬ。なら、必然的に答えは1択だ。しかし、選ばなければ俺が死ぬ。一見、詰んだ選択肢に思える。
『選ばないとどうなる?』
『お前の足場が崩れる』
……俺が死ぬ? いや、俺は死なない。足場が壊れて落下し俺が死ぬんだ。直接殺すわけじゃない。なぜだ?
『選ばない、という選択も可能だ。天秤に動きがない場合、2人の未来を約束しよう』
「あぁ、そうか……全て分かったぞ」
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