最終問題
広がる雲海。見渡す限りどこまでも続く。まるで自分が天国にいるような気分に浸れる。この場所、この光景には見覚えがあった。
そして、その時を再現するかのように目の前の雲海の中から先の尖った柱が突き抜けてくる。
クロスするように上部に柱が1本。先の両端には3本の糸と秤。巨大天秤。
「あの時の……これが最後の問なのか」
いよいよか。もうこれで終わり。終わるんだ。何としても突破する。生き残るんだ。
決意したその時、急に横から眩しい光を感じた。さっきまで横にいた女性がまた見覚えのある姿へと変わっていった。テティスだった。初めて見たときの神々しく輝くドレス姿へと変身していた。
非現実的な事には慣れた。もう何を見ても驚かなくなった。俺の目の前でテティスはふわふわと浮かんで重力を無視しながら天秤の前へと進んでいった。
天秤の前に到着したテティスはこっちを向いた。
「よくここまで残った。最終問題だ」
テティスは両手のひらを上に向けた。まるで同じ。あの時を思い起こさせる。それぞれの手のひらに輝く光。それはゆっくりと秤の上へと移動していった。
一体何を問う? 固唾を飲んで見守る。光の輝きはまるで生きているかのようにウネウネと動いて形を変えていく。それはだんだんと人の形になっていった。
「えっ……?」
思わず声が出た。これから起こるであろう最悪の想像。悪魔が創る未来。人の形になったそれの1つは理央だった。そして、もう1つは問で幾度となく見た子供のるるちゃんだった。
「嘘だろ……?」
「重要な事実を伝える。そこにいる、るるは仮の形。本当にあの上にあるのはお前の子の命だと思え。それを踏まえて答えよ」
「やめてくれ」
「大切なのはどっちだ?」
「俺の子……?」
にわかには信じがたい事実。ただ、こんなところで嘘を付く意味がないし、ここは非現実な現実を可能にしている。もしや、本当なのか?
目の前の女は言った。言い間違いじゃない。決して冗談とも思えない。何度も頭の中で繰り返される。
『大切なのはどっち?』
俺の最も大切な人。最愛の妻。あれほど願った妻との子。かけがえのない存在。唯一無二の宝物。比べられる訳がない。どっちもに決まってる。
「選択した方の未来を約束しよう」
「選択しなかった方は?」
「未来はない」
「そんなの、選べるわけないだろうがっ!」
俺の怒りなど、髪を撫でるそよ風程に気にする様子はなく淡々と言葉を置いていく。
「選ばない、という選択も可能だ。天秤に動きがない場合、2人の未来を約束しよう」
その時スマホが振動した。見ると三択が表示されている。これもあの時と同じ。
タップしてね♪
・子の命
・大人の命
・選ばない
「……選ばないとどうなる?」
「お前の足場が崩れる」
なるほど……俺の死か。
つまり、この問で誰かが犠牲になれって事かよ。それを決めるのが俺だと。こんなのあんまりだろ。
「……」
膝をつく。俯く。そして、目を閉じた。絶望する俺にテティスは呟く。
「さぁ、問に答えよ」
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