問6−3

 それはついさっき耳にした言葉。


 電車の対面にいた女性は意地悪な表情で言ってた。

『私の……見たいんでしょ?』


 スーツ姿の女性は心からの感謝を俺に言ってた。


『以前は、席を譲っていただきありがとうございました』


 ……だとしたら、おかしいんだ。矛盾してる。この言葉に嘘は無いと信じよう。そして、これまでの問をもう一度振り返る。


 最初の問で俺は、あのスーツの女性に席を譲れていない。ずっと目の前の女性に夢中で、途中乗ってきた妊婦さんにギリギリで席を譲る事が出来たんだ。


 逆にマンションから移動する時に乗った電車では、スーツ姿の女性にすぐ席を譲ることができた。もちろん、その時はずっと彼女の下着を覗いていたわけじゃない。


 つまり、答えは2人じゃない。最も未来にいるのは1人だ。対面にいた女性に声をかける。


「回答を変更する。2人じゃなく君1人を選択ってのが答えだ」


「ふふ。やっぱり私の見たいんだね?」


 変更と口にすると、虹色に輝いていた膜は消え失せた。女性の言葉に動揺しないように、平常心を意識した。


「これが最終決定だ。もう変更しない」


「決定ね……いいわ。こっちに来て」


 彼女は俺を部屋の中へと誘導していく。


 今までと場所を変えた。何か意味があるのか? すると、彼女は恥じらう素振りを見せながら呟く。


「2人きりだね。ねぇ、好きなだけ見ていいんだよ?」


 そう言われると逆に見れないし。ってかそんな事を考えてる場合じゃない。


「いや、それより回答は合ってたのか……?」


「やっぱり、つまんないの。最後だから好きなだけ楽しめばいいのに」


 最後。嫌な言葉を口にした。それはこんな問がもう最後である事を願いたい。そして、その言葉はやけに耳に残った。彼女はベランダの方へと向かって行くと扉を開いて俺を誘導する。


「そろそろ答えを教えてくれないか?」


「問は正解よ。そして、次が最後。頑張ってね」


 良かった。合ってた…。息つく暇もなく次の問だ。しかし、次が最後。そう言い聞かせて何とか体に鞭を打つ。俺がベランダに行くと、突然地震が起きたように激しく揺れ始めた。慌ててベランダの柵にしがみつく。


「ヤバいぞ。何だっ?」


 周りを見るとすべてが崩壊していた。建物が崩れる。地面が割れる。さっきまで俺がいた場所も俺の足場以外すべて崩れ去ってしまった。


 まるで、天空にでも上昇したかのような錯覚。怖すぎて足が震える。そして、気がつけば辺り一面は雲海となっていた。

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