問5−3
静寂も束の間、巨大な大口を開けて2体のそれは問に答えた2人の上に被さった。
「あ゛っあぁあぁあああああ゛あああああぁぁあ」
響き渡る叫び声。バキボキと骨ごと噛み砕く咀嚼音。大量の血溜まりが改めて脳に震える程の恐怖を植え付ける。
「答えてたら俺がああなってたのかよ」
「危ない所だったな」
「わからない。何が間違ってたんだ?」
再び2人を見た時、母親のカバンにマタニティマークがついているのが見えた。
「もしかして、あのマタニティマークじゃないか……?」
少しずつ答えに近づいている気がする。もう少しで引っ掛っている何かが取れる。そんな気がした。
「どういう事だ?」
「明らかに若い母親。なぜか時が遡っている。そして、るるちゃんには『るか』っていう姉がいたんだ。しっかりと覚えてる。考えられる事として、あれはるるちゃんに似ている姉。つまり、るるちゃんは……」
納得した様子の秋風は俺の言葉に続いて言った。
「つまり、本物のるるちゃんは母親のお腹の中ってわけか……」
頭の中に問で与えられた文章を思い出す。
『瑠璃色の地球。尊く輝く小さな光。星空のように数多ある煌めき。大事な始まりの場所。ゆっくりゆっくり少しずつ。溢れる程の愛を受けて。その場所が終わる時もまた大切。そして、また新たな世界が始まる』
「なるほどな。しっくりきた。それで溢れる程の愛を受ける始まりの場所ってことか。無事、生まれる事ができたらまた新たな世界の始まりって事だったんだな」
それにしても、時が遡っていたりなんて、どうしてこんな回りくどいことをするんだろうか。心の中で素朴な疑問が生まれた。
「分かってしまえば単純だな。答えが分かったんだ、さっさとクリアしよう」
思考に集中していた。頭の中で疑問がどんどん大きくなっていき、秋風の言葉を聞き逃してしまっていた。
死んでしまった2人。回答は『ショッピングモールのアイスクリーム屋』、いや待てよ、るるちゃんの母親だってアイスクリーム屋の中にいるだろ。
どうなってる? ピンポイントの正解じゃないにしてもあの答えは少なくとも不正解でもないはずだ。どうして死んだ?
ヤバいぞ。何か大事なことを見落としているのかもしれない。時間はある。じっくり考えるべきだ。
「まだ回答をしてはいけない」
「答えはあの女性のお腹の中だ」
ほぼ同時だった。思わぬ事態に頭の理解が追いつかなかった。
「おい、嘘だろ? 何で回答したんだよっ!」
「答えが分かったんだ。もう、時間をかける必要はないはずだ」
くそっ、何でもっと早く止めなかったんだ。頼む、杞憂であってくれ。頼むっ。
秋風の上に大口をあけたそれが姿を表した。
「大丈夫だ。合理的に考えて答えはこれしか考えられない」
ゆらゆらと微妙に揺れている。まるで獲物を物色するかのように。ぽたぽたと液体が滴っている。ご馳走を目の前にしながらも待てをされている動物のように。
祈りながら見ていた。全身に力が入る。汗が伝うのを感じる。願いが通じたかのように天井からぶら下がったそれは少しずつ体を引っ込めていく。
さらに、アイスクリーム屋にいる少女は天使の様な微笑みを浮かべ祝福を贈るように呟いた。
「ざんねんでした」
理解がまるで追いつかなかった。
「えっ……」
「秋風っー!」
ゆっくりと体を引っ込めていったそれは、吊っていた糸が突然切れたように秋風の上にゆっくりと降り注いだ。
「あ゛あ゛あぁあぁあああああああああ」
もう何度も目にした嫌悪の光景。目の前の受け入れられない現実。
自分自身の無力感、救えなかった悔しさに力なく膝をついた。
「くそぉぉぉぉぉおおっ」
大声で感情をごまかしても虚しく響き渡るだけだった。
辺りを見ると、何事も無かったように戻る日常。まるで秋風がその場にいなかったような感覚に陥る。
吐き気さえも感じる程に乱暴に掻き混ぜられた感情は黒く濁り、もう限界で精神はギリギリだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます