問5−2
「瑠璃色の地球、また、新たな世界が始まる……何を意味してるんだ……」
念仏のようにずっと唱え続けた。諦めたのか秋風は不満を漏らしていた。
「この暗号と模範となる大人とどう関係がある? ただ、俺達を弄びたいだけだろ? 瑠璃色とかかっこつけやがってよっ!」
「瑠璃色、あっ……」
「何だよ。また何かに気づいたのか?」
「分かった、かもしれない」
「瑠璃色のどこがヒントなんだよ」
「違う。大事なのは最初の文字だ」
「最初の文字。ってことは『る』だな」
「そうだ。そして、大切なのは始まりと終わり」
「なるほど、それでいくと最後の文字だな。新たな世界が始まる……あっ」
秋風も気付いた様子で驚いていた。
「始まりも終わりも『る』なんだ。繋げると『るる』。とても、偶然だと思えない」
さらに秋風は興奮して話し出す。
「おい、それならさっきこの近くでショッピングモールを見たぞ!」
「そこだ! 行ってみよう」
すると話終わる頃、近くにいた2人組が突然走り出した。
「ヤバいぞ、あいつら盗み聞きしてやがった! 方角も合ってる、まずい」
慌てて俺達も全力で後を追った。
「はぁ……はぁ……」
日頃の運動不足がこんなタイミングで悔やまれる。
くそっ。完全に油断していた。今になって考えると警告はあった。テティスが早いもの勝ちと言っていたのを考慮し、こうなることも予期すべきだった。
答えが分からないならこっそり盗み聞きするのも考えられる戦略だ。もっと慎重に行動すべきだった。しかし、今は後悔する時間の余裕すらない状況だ。
「遅いぞっ!」
向こうも俺達もそれこそ命を懸け本気で走ってる。簡単には追いつかない。が、何とかして追いつかないと死ぬ。息切れで上手く思考できないが何とか作戦を立てるしかない。
「わかってるよっ!」
「わかってねぇんだよ! もう、着いちまうぞ!」
秋風のその言葉通り、大型のショッピングモールが視界に入るところまで来ていた。
「スピードで勝てない。先にるるちゃんの居場所を特定しよう。ピンポイントで当てるしかない」
「どこにいる? 最初に迷子になっていた場所か? おもちゃ屋か?」
くそっ。外すと負ける。どこだ? 走りながらも脳をフル回転させる。
考えろ。るるちゃんのいる場所……。
「やっぱりだ! 前の問とこのショッピングモールは同じ場所だ。絶対に先に見つけるぞ!」
「あぁ。分かってる」
「もう間に合わない。二手に分かれるぞ!」
るるちゃんのいそうな場所……。好きな……もの? そうだっ!
「待て秋風。場所が分かったぞ! 急ごう3階だ!」
「3階? 行ったことない場所だぞ。なぜわかる?」
人をかき分けてエスカレーターへと向かう。慌てながらも慎重に確実に進んでいく。
「前の問。確かおもちゃ屋の箱にるるちゃんの大好きなものが書いてあったんだよ」
「あぁ。そういや何か書いてあった気がするな。ってかよく覚えてるよなそんな事」
「1度ショッピングモールのマップも見たから覚えてる。るるちゃんの大好きのものはアイスクリーム。そして、それがあるのは3階だ!」
話している間にエスカレーターで3階へと到着した。推理に自信はあるが間に合わないかもしれないという焦り、間違っていたらどうしようという不安に心が押し潰されそうだった。
「あったぞ。あそこだ! 行くぞ!」
頼む。いてくれっ。祈るような気持ちで店の前へと進んでいく。そして、店の中を見た。
そこには店員に注文している親子がいた。日常のとある一コマ。仲良く微笑む親子の姿。穏やかな休日。
そこには見覚えのある母親と、見覚えのある女の子がいた。
「いたぞっ! 生き残れるっ!」
秋風が興奮して思わずそう声を発した。彼女の発見に喜びを爆発させていた。しかし、答えであるはずのその親子から妙な違和感を感じた。
「秋風待てっ! 嫌な予感がする。似てるけど、ちょっと違わないか? 何か…若いぞ?」
「言われてみればそんな気もするが、それが何だ? 今はじっくり考える余裕なんてないんだぞ!」
秋風が言い終わった時、向こう側から走ってくる2人組が見えた。
「お前らどけっ! 俺達が生き残る!」
「ヤバいぞ。先を越される……早く決断しろ!!」
命を賭けた大事な決断。生か死か。刹那の一瞬。
映像が止まる。音が止む。そして、時が止まったような錯覚。
俺はこれまでの情報から友と自らの命を背負い、答えを出す。息を忘れる程の集中。導いた最良の選択。
止まった景色がスローモーションでゆっくりと動き出す。その時、秋風の声が聞こえた。
「答えは、ショッピングモールの……」
秋風の体を押さえて慌てて静止する。
「待て。これはひっかけだ。答えてはいけない」
後から来た2人はそのまま答えを口にした。
「答えは、ショッピングモールのアイスクリーム屋だっ!」
流れる静寂の時。張り詰めた緊張感がその場に広がった。
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